「民俗資料」の区分けと資料名称:生産者数と製造数に注目して(宇仁義和) 全日本博物館学会(2024年6月29–30日@北海道開拓の村)のポスターデータ pdf 3.5 MB
2024-5-21 研修会「効率的な保存と収蔵庫運用法」 北海道博物館協会学芸職員部会の事業として函館市教育委員会文化財課(元市立函館博物館学芸員)の奥野進氏を講師としたオンライン研修会を開催しました。関心のある方は連絡ください。
2024-4-30 走知美勉強会 北海道東部にある網走市・斜里町・美幌町の博物館3館とで資料の収集基準や受入登録の手続き、収蔵庫の状況、そしてデータベースについて情報交換をおこないました。資料の分担収蔵については将来的にも想定外という印象でした。内容は参集館の間でのみの共有としました。
2023-10-31 横浜フォーラム2023「フランスから考える民俗資料の収集保存と活用方法」【終了しました】
→【開催報告】
基調講演は、グルノーブル・アルプ大学 Université Grenoble Alpes の ベルトン アリス BERTHON, Alice 先生。フランスでは文化大臣も委員を務める博物館委員会やコレクションに関する国や自治体の委員会が存在すること、登録博物館の目録掲載資料は譲渡不可であることなど、日本とは異なる状況を知ることができました。
本研究は、地域博物館の主要な資料である「民俗資料」について、収集保存と廃棄譲渡の選択指針を公開の場で議論し、緩やかな合意形成を行ない、あわせて現代的な命名法と検索用のデータセットを構築することを目的としています。研究の項目は下の5つです。
1.「民俗資料」の収集指針の提案
2.収蔵資料の廃棄と譲渡に関する基準の提示
3.検索用のメタデータの追求
4.通文化的な検索名称の考案
5.海外博物館での「民俗資料」の扱い
「民俗資料」は、人文系の資料全体から考古・美術・歴史の3部門の資料を除外したもので、いわゆる民俗文化財に加え、電化製品や大量生産品、その他の生活資料や産業資料を含めた広い意味で用いています。なかでも注目しているのは「半量産品」です。手作りの民具は日本民俗学会や日本民具学会という研究コミュニティが存在し、高度な技術製品については国立科学博物館に付属する産業技術史資料情報センターが調査をしてきました。ところが、農機具のような低度技術で小規模の量産品は研究母体がなく、一部の博物館では未審査で集めてきた状態の悪い資料が収蔵庫を圧迫する状況となり悩みの種となっています。
この状況を改善することが研究の目的です。
メンバー
宇仁義和(東京農業大学学術情報課程オホーツクキャンパス) researchmap ウェブサイト ブログ twitter (X)
持田 誠(浦幌町立博物館) researchmap ブログ twitter (X)
石井淳平(北海道博物館協会学芸職員部会) researchmap ブログ twitter (X)
本間浩一(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所) ウェブサイト
資料の廃棄が現実の問題となるのは、収蔵庫の容量が有限だからです。理想を言えば、博物館の使命はすべての資料を永遠に保存することですが、実際には博物館はさまざまな形で非保存を選択しています。それは設置目的や使命、収集方針、さらには収集委員会などによる資料価値の判断による収集の断念。収蔵庫の容量不足などを理由にした収集の停止。これらの選択により保存されることなく散逸や廃棄となった文物が生まれます。破損や不揃いなど不完全な民俗資料が存在するのであれば、順序は逆になりますが受入後に資料の価値判断をすることが必要になってくるでしょう。その結果、譲渡や交換、さらには廃棄も許される場合があるのではないでしょうか。
資料の廃棄は、これまで禁忌、タブー視されてきました。平成の市町村合併はその契機だったのですが、資料の廃棄に及んだ博物館がその事実や内容を公表することはほとんど無かったと思います。状況を変えたのは、2018年に「お別れ展示」を行ない、新聞やテレビに積極的に広報して実際メディアが報じ、東京大学でフォーラムが開催された鳥取県の北栄町歴史民俗資料館の事例でした。このケースでは除籍資料の8割以上が個人や団体に譲渡されました。
廃棄は非可逆的な処分であり、多面的な判断が求められます。ところが、これに必要な情報が現在の日本には不十分なのです。保存の優先度を判断するには資料の希少性を知る必要があります。資料へのアクセスを考えれば、他の博物館での同一資料や類似資料の所蔵状況を把握することが望ましい。ところが、これが不明なのです。まず、資料台帳が不完全な場合がある、台帳が完全であってもネット非掲載のことが多い、さらにネットで公開されていたとしても資料名称が不統一で検索が難しいのです。
そこで検索用メタデータの追求や検索名称の考案を目指しているのです。
Googleで「"収集方針" "資料" -図書館」として検索した結果を抜き書きしました。小規模博物館の事例は少数です。図書館を除外したのは、「"収集方針" "資料"」だと図書館がずらりと並び、「"収集基準" "資料" -図書館」でも文書館がたくさん当たるためです。つまり、資料の収集方針や収集基準は、図書館や文書館では文書化されネット公開が進む一方、博物館では遅れているのです。資料の譲渡や廃棄を進めるには、逆説的ですが収集方針が確立している必要があります。廃棄を検討することは収集方針を再確認する作業にもつながるでしょう。参考資料とするため自然史博物館や国立の博物館の事例も掲げています。
この他にもネットでは非公開ながら文章化している博物館があります。興味のある方は連絡を。
○千葉県
船橋市博物館資料収集方針(案) pdf 172 KB 「(案)」の無いページは見つからず
○神奈川県
小田原市郷土文化館資料収集方針 pdf 157 KB やや大づかみな印象
○愛知県
豊橋市自然史博物館資料収集方針 pdf 155 KB タイプ標本や証拠標本といった固定した意味のある資料が現れます
資料収集方針_名古屋市博物館 pdf 137 KB 「農具・養蚕具・製紙用具・亜炭採掘用具・漁具については館蔵品の補完的収集」
○岐阜県
資料収集方針_みのかも文化の森・市民ミュージアム pdf 163 KB 民俗部門は1人の個人写真コレクション、養蚕、地域独自の生業の3点に限定
○大阪府
自然史標本の今後の収蔵計画について_大阪市立自然史博物館資料収集方針 pdf 117 KB 「事前対応」として「個人所蔵標本の管理へのアドバイス」を明記し、受入しない資料の利用や保全も記載
○岡山県
真庭市文化財資料(民具等)収集方針 pdf 167 KB
○鳥取県
鳥取県立博物館の博物館資料収集方針 pdf 198 KB やや抽象度が高い
北栄町歴史民俗資料館資料収集方針「砂丘とクロボクに育まれた人とまち―北栄町文化財保存活用地域計画―【資料編】」88p pdf 1 MB
○徳島県
徳島県立博物館の資料収集方針 かなり対象分野が広い。平成16(2004)年改定
○高知県
2023年から高知県立歴史民俗資料館資料収集方針・収蔵のあり方検討委員会が始まり、2024年7月までに開催された3回分の議事概要が公開されている。
第1回高知県立歴史民俗資料館資料収集方針・収蔵のあり方検討会 | 高知県
*第2回と第3回の検討会へのリンクがある
第1回高知県立歴史民俗資料館資料収集方針・収蔵のあり方検討会議事概要 pdf 175 KB
○長崎県
収集方針 | 対馬博物館
○文化庁 国立近現代建築資料館
収集方針 | 文化庁 国立近現代建築資料館 国レベルの一級資料の収集基準。脚注方式
資料の廃棄や処分を明記した博物館や資料館の条例や規則もいくつか見つかりました。条文で定める内容は廃棄にあたっては文化財や資料に関する委員会での真偽を諮るとしており、恣意的な廃棄や安易な処分を予防するものでした。資料廃棄に関する規定が制定当初から存在するのか、それとも後年の改正によるのか、その場合いつの時点に盛り込まれたかなどについては順次調べる予定です。
この他にも廃棄や処分を記載した条例規則要綱などあればお知らせ下さると助かります。
○秋田県
横手市資料館等資料取扱要綱
第9条が廃棄。承認や諮問の手続きは見えない。受納から12か月を経た後に可能
小坂町立総合博物館郷土館資料規則
第5章が廃棄。廃棄は館長発議で教育長の承認が必要だが、事前に郷土館資料所蔵選定委員会の意見を聞く
○東京都
豊島区立郷土資料館資料収集管理要綱
第16–18条が廃棄と除籍。廃棄と除籍には、資料調書の作成と学識経験者からの意見聴取を明記。除籍には資料の返還を含む。2021(令和3)年の制定施行
○神奈川県
川崎市市民ミュージアム被災収蔵品の取扱について(令和2年7月作成) pdf 5.5 MB
「川崎市市民ミュージアム収蔵品レスキューの状況及び被災収蔵品の処分について(2023-2-9)」の8pに掲載
2019年10月の令和元年東日本台風で地下収蔵庫が浸水、数十万点以上にのぼる大量の被災資料が生まれたことを受け2020年2月に策定された。これに基づき、現在に至るまで資料の処分が続けられている。
○滋賀県
愛荘町立歴史文化博物館の管理運営に関する規則
(専決事項)第5条「館長は、次の事項を専決する。(3)資料の選択、収集および廃棄に関すること」。資料廃棄は館長権限で上位職の承認や協議会への諮問は見えない。
○熊本県
熊本博物館及び熊本市塚原歴史民俗資料館資料取扱要綱 pdf 160 KB
(寄贈資料に関する廃棄)第22条「寄贈資料に関する廃棄処分については、資料取扱審議機関が協議するものとする」。廃棄処分の権限を館長に移譲することを明記した「寄贈申込書」「寄贈受領書」の様式を添付
○北海道
江別市郷土資料館 旧大麻文化財整理室
寄贈された開拓期時代の農機具など600点を江別市が市民に知らせることなく処分“文化財を考える会”「ありえない」と抗議 - YouTube 【映像】
市民寄贈の郷土資料を無断で処分 市民団体が抗議 北海道江別市 | 毎日新聞 有料記事
旧大麻文化財整理室における収蔵資料の廃棄処分について|北海道江別市公式ホームページ *リンク切れ、ウェブページ削除済み
【お詫び】旧文化財整理室保管資料の処分につきまして|北海道江別市公式ホームページ
旧大麻文化財整理室収蔵資料廃棄処分に係る報告書について | 北海道江別市公式ホームページ 2024年9月に公表された最終報告書
○宮城県
登米市米川公民館
「古民具市」開催予告|米川・里山だより
?古民具市?開催!|米川・里山だより
○神奈川県
川崎市市民ミュージアム
川崎市:川崎市市民ミュージアム収蔵品レスキューの状況及び被災収蔵品の処分について(令和5年2月) pdf 5.5 MB
川崎市:市民ミュージアム 収蔵品レスキューについて
茅ヶ崎市博物館
令和5年度第1回茅ヶ崎市博物館協議会会議録 pdf 1.5 MB 廃棄についてはpp.14–16の議題4「旧文化資料館収蔵資料について」、収蔵施設の解体にともなう資料移動で580点を廃棄
令和5年度第1回茅ヶ崎市博物館協議会|茅ヶ崎市 資料3に「(仮)コレクションマネジメンと及び関連規定の整備について (PDF 1.7MB)」がある
○長野県
長野市立博物館
長野市立博物館の収蔵庫不足で検討会議 収蔵品の再調査実施へ|NHK 長野県のニュース
筑北村西条の村収蔵庫(旧本城村民俗資料館)
筑北村の収蔵物 村民に無償譲渡へ | 政治・経済 | 株式会社市民タイムス
譲渡後の収蔵物 筑北で活用保存の取り組み調査 | 政治・経済 | 株式会社市民タイムス
○石川県
輪島市民俗資料館
解体の旧輪島市民俗資料館 売却する所蔵品公開 きょう入札 | SHOSHO | 石川県立図書館 新聞記事の書誌情報
○愛知県
豊明市歴史民俗資料室
広報とよあけ 2019年 (3月1日) (868) | NDLサーチ | 国立国会図書館 12p「民俗資料の整理」 pdf 13.5 MB
平成30(2019)年度第4回豊明市文化財保護委員会会議録 pdf 74 KB
○奈良県
奈良県立民俗博物館
2024年7月の山下知事の資料廃棄を含む発言から全国的に注目された。同館は空調設備の故障を理由に同年7月15日をもって長期休館となった。空調設備の故障事態は前知事の時代に発生しており、2023年も夏季休館している。関連学会の声明や研究者の寄稿のほか、SNSでも批判的な発言が数多く見られた。合わせて奈良県立大学に寄贈された植物標本が意図的に廃棄された事実も明るみとなっている。知事の発言は奈良県公式サイトを参照したい。7月30日の会見に奈良県が提出した説明資料「奈良県立民俗博物館の展示室一時休止 -民俗資料の収集・保存のこれまでと今後の方向性」は内容が充実しており参考となる。
・民俗資料報道記事
「価値ないものも受け入れ」奈良の博物館、一時休止 展示方針を検討 [奈良県]:朝日新聞デジタル
県立民俗博物館 山下知事“保存資料の廃棄も検討”|NHK 奈良県のニュース
日本民具学会「民具(有形民俗文化財)の廃棄問題に対する声明」
奈良県知事の収蔵品廃棄発言と、その背景にある本当に考えなければならないこと(加藤幸治)|美術手帖
奈良県立民俗博物館の本館展示室を臨時休館 - 7月3日から9月11日まで、空調設備の不具合で|奈良新聞デジタル 2023年の夏季休館を伝える報道
・植物標本廃棄
県立大が植物標本1万点廃棄 寄贈した団体が説明求め要望書|NHK 奈良県のニュース
故岩田重夫氏の植物標本廃棄についての要望書 pdf 82KB
奈良県立大の植物標本廃棄問題 県の回答に研究者らあぜん | 毎日新聞 県は「自然史研究・教育を所管する体制がないのに寄贈を受けたことが遠因」として、標本の受け入れ自体に問題があったと説明。
・奈良県公式サイト
令和6年7月10日(水曜日)知事定例記者会見/奈良県公式ホームページ
令和6年7月30日(火曜日)知事定例記者会見/奈良県公式ホームページ
奈良県立民俗博物館の展示室一時休止 -民俗資料の収集・保存のこれまでと今後の方向性 pdf 1.4 MB
○鳥取県
北栄町歴史民俗資料館(北栄みらい伝承館)
増える収蔵品、悩む博物館 全国の6割が「満杯状態」 [栃木県]:朝日新聞デジタル
リンク切れ 開催前の会議で譲渡に関する記録は簡素。平成30年度 第1回 北栄町歴史民俗資料館運営委員会 議事録 pdf 254 KB
フォーラム|東京大学大学院人文社会系研究科 文化資源学研究室 ページ中程にリンクされた報告書は pdf 62.4 MB
○愛媛県
伊予市教育委員会
令和3(2021)年度第1回伊予市文化財保護審議会議事録 pdf 657 KB
○宮崎県
木城町教育委員会
預かり史料を無断処分 木城町教委 - Miyanichi e-press 宮崎日日新聞
第三者委が報告書公表 木城町文化財廃棄問題 - Miyanichi e-press 宮崎日日新聞
平成28(2016)年第5回(定例)木城町議会会議録(第2日) pdf 449 KB 38–55ページ