日本列島は南北に長く、流氷海からサンゴ礁の海まで幅広い気候が存在し、言い換えると極北から亜熱帯までの海域が広がっています。生息する海獣も亜寒帯域のアザラシやトド・オットセイ、温帯のアシカ、亜熱帯のジュゴンと多様です。
よって日本では、捕鯨やイルカ漁以外にもラッコ・オットセイ・ニホンアシカは近代に猟業が行われ、オホーツク海のアザラシ猟業は1970年代まで操業されていました。科学調査が実施される以前の生息状況を知るうえで、これら猟業は貴重な情報として研究されるべきと考えています。
ところで、海生哺乳類に関した日本語の科学文献は多くありません。日本近海の調査や日本人研究者による論文も英語のもがほとんどです。この点、国内の動向が日本語で読める陸上の哺乳類とは状況が異なります。さらに、教科書や人との関わりに関する文献でも海獣には英語が必須です。この傾向は鯨類に著しく、国内の旧鯨類研究所(日本鯨類研究所)や国立科学博物館の論文も英語が基本です。このため、クジラやイルカ、アザラシなど人気が高く、一般の知識要求が高い分野にもかかわらず、プロの研究者とアマチュアの愛好家の間には知識や研究状況の理解に大きな差が生じてしまっています。調査にも船舶や飛行機、衛星などが必要で勢い大規模となり、大学や政府機関等の研究者・調査員以外には敷居が高いのが現実です。層が厚く、大学研究者から調査ボランティアまで多様な参加がある陸上の哺乳類とは対照的ではないでしょうか。
いまのところ個人で海生哺乳類にアプローチする一番簡単でかつ成果も期待できる方法は海岸漂着個体(ストランディング)の記録と資料採集です。全国的な情報収集は旧鯨研が始め、現在では国立科学博物館が中心的役割を果たしています。
海生哺乳類の研究は科学研究に加え、水産資源あるいは漁業との関連から資源管理面からの調査報告も多く、発表の場となる学会や国際機関も複数存在します。国内でも省庁分けすると、文部科学省、農林水産省、環境省、都道府県(とくに北海道)が手がけています。ここでは愛好家や初学者を念頭に置いた文献紹介と関係機関へのリンクをしておきましょう。
セト研 日本海セトロジー研究会
SMM 海生哺乳類学会
IWC 国際捕鯨委員会
FAO 国連食料農業機関
PICES North Pacific Marine Science Organization=パイセス
IUCN 国際自然保護連合
UNEP 国連環境計画
NMML National Marine Mammal Laboratory
NAMMCO The North Atlantic Marine Mammal Commission
ところで、個人的に調査や研究、勉強をしようとする人にとっては文献の入手や閲覧は困難で、地方の居住者はなお不便な環境にありました。この状況を一気に打破したのがインターネットの文献検索サイトです。全国大学図書館Web−Catや国立国会図書館NDL−OPC、そして都道府県立図書館などにより蔵書検索を行い、貸出も市町村立図書館を通して可能になったことは地方在住者にとってはたいへん大きな朗報でした。しかし、国内では海生哺乳類に関する文献の整備状況は不十分で、一部の研究機関以外では基本文献ですら入手が困難なものも多く、大学や拠点図書館の充実が望まれます。