北海道新聞オホーツク面「ときわぎ」平成21年(2009)8月1日

ことばあふれる世界へ

去年の秋、偶然にNHKのドキュメンタリー「ことば あふれ出る教室」を見た。

横浜市立盲学校の全盲の児童6人が、全身の感覚を総動員して漢字を学び、表現力を身につけ、生きる世界を広げていく―という内容だった。

番組の語りはただ一人の卒業生によるものだったが、正確かつ情感豊かで、見る者を引き込んでいく。先生や友人どうしの会話の様子は、ことばの持つ強さを実感させてくれた。

周囲を見渡せば、読み流されていく注意事項、人工音声によるアナウンス、形式的なあいさつ、公式見解の確認に終始するような会話―、心に響かない記号のような日本語に取り囲まれている。

ワープロが発明され、メールとブログによって、かつてない規模で日本語の文章が生産されるようになった。しかし、これらは、情報の伝送に過ぎないのではないか。携帯電話の予測変換は、確実に語る力を衰えさせる。

現代の生活は文字や活字なしには成り立たない。絵文字が起源の漢字はぱっと見てわかり、勉強すれば多彩で正確な表現が可能だ。

一方、話しことばを訓練する機会は意外に少ない。上達しないのは当たり前なのかも知れない。

この夏は、日本語が滅びないよう、ことばを鍛える時間をつくりたい。


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