先月は網走に津波警報が発令されて驚かされた。オホーツク沿岸に津波が来るのはめったになく、記憶されるのは一九六〇年のチリ沖地震津波くらいという。それでも用心するに越したことはなく、防災無線はサイレンを繰り返し、消防車が避難を呼びかけ走り回る騒ぎのなか、高台に向かった。津波はほとんどなかったようだ。
地震といえば神戸を思い出す。阪神淡路大震災の発生から二か月たった九五年三月に現地を訪れた。いまだ被害の跡は生々しく残っていたが、皆が日常を取り戻そうと必死だった。
そんななか、足にしていた軽トラックで聞いた「キッスＦＭコウベ」が忘れられない。ふだんは音楽主体の放送なのだろうが、このときは聴取者からの手紙をずっと紹介していた、内容はきわめてシンプルで、 誰々さん聞いていますか、私もたいへんですが、いっしょにがんばろうというもの。それを延々と若い女性ＤＪがしゃべっている。
たったそれだけなのだが、普段は何気なく使う「がんばってください」の言葉にたましいが入っている。同じような手紙でも、ひとつひとつ丁寧に読み上げる。名前がラジオで流れて、地震で埋もれそうになった心が自分を取り戻しただろうか。きっと彼女も震災体験の共有者に違いなく、その言葉は自分に向けたものだったのかも知れない。
話し言葉の力を感じた思い出である。