北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成11年(1999)10月27日

雪虫

今年も雪虫を見た。知床連山が雪化粧をしてから二日後のことである。この虫が現れてから1週間もすると平地でも初雪が降る。印象深い名前はドラマの題名にも使われ、内地でも知られるようになった。

実は、よく似た虫は本州にもいる。子どもの頃は京都に住んでいたが、そこで見たことがある。白い毛玉が飛ぶ様子からか、中学校の同級生は「シラケ虫」と呼んでいた。あるいはテレビ番組でそういう替え歌が流行ったからだろう。その後、この虫のことはすっかり忘れてしまっていた。

再び彼らの存在を意識したのは、北海道に住むようになってから。こんどははっきりと、冬の訪れを告げる「雪虫」として。誰が名付けたのか、なんてロマンチックな名前なんだろうと思う。昔聞いた名前とは大違いだ。また数多く乱れ飛ぶのもはじめてだった。

彼らは何の前触れもなく突然に現れる。その存在は誰もがみんな知っている。しかし、彼らがいつ生まれ、どうやって成長するのか、本当はアブラムシの仲間で複雑な生活史を送るということなどは、知る人は少ない。

けれどもそれで良いのだろう。この虫は世の中に数少なくなった神秘的存在なのだから。寓話(ぐうわ)めいた物語りを乗せて、来年も姿を見せてくれるだろう。


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