戦後、北海道は被災者や引揚者の受け入れ地としての役割を果たしてきた。知床半島も例外ではなかった。ウトロの漁場開発は樺太からの引揚者が担い手となり、羅臼岳のふもと岩尾別台地では開拓が試みられた。こうした歴史を調べていくうちに貴重な報告書に巡り会った。
『引揚援護の記録』は昭和二十五年に刊行された公式記録である。太平洋戦争後の引き揚げは、海外在留邦人六百六十万人の帰国と在住外国人百二十万人の送出を行う大事業だった。
昭和二十一年末までに約五百万人が帰国したが、終戦後の混乱と物資不足のなか、衣服や食料、医薬品などの確保に努めた担当者は、たいへんな苦労を味わったのだろう。また、多くの団体もボランティアで協力した。この本には、こうした無名の人たちの働きが詳細に記録されている。
海外からの集団での引き揚げは、昭和三十三年まで続けられた。「世界史上空前の民族移動」といわれた事業に関する公式記録も、正・続・続々と時間をおいて3回発刊された。膨大な事実と積みあげられた数字からは、当時の緊迫した空気と仕事への責任感が伝わってくる。
それは皆が一生懸命だった時代。もっと深く知りたいと思う。