カヤックはもとはエスキモー(イヌイット)やアリュートなど極北地域の民族が用いた船だった。カヌーと異なり、人が乗る部分を残して船の上部全体が皮で覆われ、櫂(かい)は1本で、その両端を使って漕ぐ。移動手段や狩猟道具として主に海で使われていた。
皮製のカヤックは今世紀前半には姿を消し、今では博物館に保存されるだけとなった。本物は道内でも見ることができ、函館の北方民族資料館には世界的に貴重な3人乗りのものが展示されている。これは明治初期、開拓使が北千島で収集した。ラッコ猟に使われていたという。
一方、スポーツとしてのカヤックは北方民族の知恵を拝借し、ヨーロッパや北米で新たに生み出された。氷の海に見事に適応し、数千年にわたり活躍したきた性能が現代人を魅了したのだろう。
少々狭いコックピットに潜り込んでパドル(かい)を握りれば、水平線までさえぎるものは何もなく、思いのままに船を操ることができる。この開放感、そして自力で漕ぎ進む満足感、これらはほかでは得られない格別なものだ。
知床をはじめ、北海道の海は、シーカヤックのフィールドとして注目を浴び始めている。それは水がきれいで陸地の景観が美しいからにほかならない。まわりまわって手元に届いた海の文化を大事に育てていきたい。