北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成11年(1999)4月21日

ナショナル・トラスト

ナショナル・トラストは、土地を買い上げ、自然や遺跡を保護することが目的だが、発祥の地イギリスでは、維持管理の一部がボランティアで行われている。エーコン・プロジェクト(どんぐり企画)と呼ばれる活動だ。

私が参加した場所は、イングランド北西部マンチェスターの近く、ダンナム・マッシー公園という十六世紀の貴族の屋敷。広大な土地にカシワやブナの大木がそびえ、北大の植物園のような感じだ。芝生にはアナウサギやダマシカの遊ぶ姿が間近に見られ、手軽なレクリエーションの場として親しまれている。

十二時間飛行機に乗り、やっとたどり着いたイギリスで、待っていたのは草むしりだった。他には腿(もも)まで水に浸かっての池掃除、巨大な鎌を使った草刈り、側溝の落ち葉拾いと極めて地味な一週間だった。英語での会話には苦労したが、黙々と作業にあたるイギリス人とは不思議に心が通いあったように思う。それは単純な肉体労働ながら、チーム・ワークが成立していたからだろう。あれから何年も経ったが、ダンナム・マッシーは特別な場所として強く記憶されている。

知床から広がった日本のナショナル・トラスト運動も、各地で体験参加型の活動が増えてきている。成功の鍵は、いかに印象深い時間を過ごせるかに掛かっているように思われる。


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