北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成11年(1999)2月16日

流氷の色彩

流氷がやってきた。雪の日には、陸、海、空が白一色の世界となるが、実は豊かな色彩の持ち主でもある。

最初に登場するのは「蓮(はす)の葉氷」。多くは流氷とは別に、動きの少ない沿岸部の海水が凍ってできる。氷の色は透明だ。波がかき乱す泥で濁っていることも多いが、造形のおもしろさが魅力である。

色彩に華がでるのは、流氷本体の接岸後である。接岸したばかりの流氷はまだ薄く、風向きによっては、一部を残して再び沖に戻ってしまう。岸近くに残された氷は、風と波をさえぎる防波堤となり、ふだんの海では存在しない「鏡のような水面」が出現する。

そこには様々な風景が映し出されるが、なかでも夕焼けは特別に美しい。赤から白、そして青に変化した空の光が、海と氷のスクリーンに反射され、見るものすべてが夕陽の光に包まれるのだ。

春、遅くまで溶け残った氷は、溶けては凍ることを繰り返し、全体に青みを帯びてくる。流氷の勢力が強かった何十年も前には、背丈を越える氷の山が出来上がり、その根元はうすい緑色に染まっていたそうだ。

氷と光の色彩は、想像をこえる美しさだったに違いない。


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