北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成12年(2000)1月29日

バラのカモメ

最近のようにひどい吹雪が続くと斜里の港に行きたくなる。英語で「バラのカモメ」と呼ばれるヒメクビワカモメが現れるかも知れないからだ。斜里港は、ほんのりピンク色をしたこのカモメの国内初確認地なのである。

カモメの仲間は種類が多く、熱帯から寒帯に至る地球上の広い範囲に分布する。道内で繁殖しているのは、オオセグロカモメとウミネコの2種だけだが、ユリカモメやカモメ(これが種名)が渡りの途中に訪れ、冬越しのために千島やアリューシャン列島からやってくる種類もある。

一方、ヒメクビワカモメはシベリア最北部で繁殖し、北極圏を離れることはまずない。「彼女」の姿を見ようする欧米のバードウオッチャーは、アラスカ北端のバロー岬に出掛けて行く。それでも、ヨーロッパからは最も行きやすい観察地なのである。まさに極北のカモメ、姿を見るのは一生に一度の出合いだろう。

ところが、北緯四十五度の知床で、毎年のように冬になるとこのカモメが観察されている。流氷が海を埋める頃、知床はまさに北極圏の姿をかいま見せるのだ。

と、書いてはみたものの、実のところその姿をまだ見たことがない。ひらひらと飛ぶという「バラ」の観察は、今世紀中にやっておきたいことの一つである。


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