宇仁:前に先生方に出てきてもらいまして、会場カメラに切り替えたいと思います。初めに申し上げましたとおり、この会場は4時45分には必ず終了して延長は無いということでお願いしたいと思っています。話し足りないという方もいらっしゃるかと思います。その場合は、会場を出まして5時から近くのカフェで話の続きをする場所を持ちたいと思っております。時間が非常に限られていますので、全体を通して質問をいただきたいと思います。まず、会場の方から質問があればどうぞ。
会場参加者1:国立市にある「くにたち郷土文化館」の学芸員です。ベルトンさんに質問です。お話では本当に日本の博物館の状況と似たところがあることに驚きました。日本では小学生向けに昔の道具について勉強することが「総合的な学習の時間」にあり、そういった場面などで博物館の民具が使われています。フランスではどうなんでしょうか。小学生向けで以外でも、一般の市民向けなどで民具を活用してる事例があれば、ご承知の範囲で教えていただきたいのです。
ベルトン:ありがとうございます。その方面の情報を持っておらず、十分なお答えできずに申し訳ありません。ただ言えるのは、博物館の登録資料を使った学習活動というのはフランスではありえないということです。博物館が受け入れたなら、資料本来の機能は失われている。そこから使うことはありえないんです。他方、研究資料のような概念があります。博物館の資料目録には載ってないけど博物館が持っている資料があり、それを学校団体に向けて説明するというのはあるんです。けれども教育委員会との連携などはフランスよりも日本の方が強いです。フランスではどちらかと言えば大人向けの方が進んでいると思います。
会場参加者2:千葉市科学館の学芸員です。今日の議論はすごく重要な議論だと思います。博物館法改正も70年ぶりにやって、そのなかでもデジタルアーカイブがクローズアップされていています。実際には各館がどれだけデータ提供できるか、どういう仕組みで実現するかということが課題になっていくと思っています。それで持田さんに質問です。気になったスライドがありまして、民具に関して収蔵資料の分担という話についてです。僕は自然史の人間ながら千葉の民俗文化財の指定の仕事で民俗系の学芸員と一緒に加わったので何となくイメージできていると思っており、その上での質問です。
確かにいろんな地域でいろんなモノがある。たとえば唐箕などは、この博物館にもある、あそこの博物館にもあるという状態ですので、分担していくというのは判からなくはないんです。けれども資料の分布を考えていくと、博物館の資料は実物がないと意味がないと思っているんです。データ上の記録があったとしても、それはあくまでもデータでしかない。どこかの博物館にあるから、じゃあこっちの博物館はいらないよねということは基本的には成り得ない。それぞれ地域があるわけで、その地域で当該の資料を使っていたという証になるわけです。行政の人と話をすると、収蔵庫が足りないという話をすると、そうですか、だったら同じ種類の動物や植物をたくさん保管する必要はないですね。種類ごとに1つあればいいんじゃないですか、と言われてしまう。それは重複資料の廃棄を意味してるんですね。
でも、資料が重複しているという事実は毎年毎年この地域でその種が存在している証になる。だからそれは同じ種類であっても、何百年単位千年単位で保管していかなきゃいけない。同じ種類の標本であっても、それが自然史博物館のミッションだと思うんです。同じ種類だから1つあればいい、他は年代のものはいらない、10年前の個体は必要無いでしょうということにはならないんです。このあたりは自然史系と人文系の違いがあるのかも知れませんが。つまり、用具の分布を考えた場合、博物館が立地する地域がそれぞれ違うわけなので、個々の博物館が所蔵していくことが必要ではないかと思っているんです。分担性のスライドが気になったというのは、このような意味です。
持田:ありがとうございます。私のスライドの説明が少し不十分だった部分があったと思います。私が示した分担は、各地域の資料を分野別に専門化した博物館で分担して収蔵するということです。たとえば、A市で唐箕が寄贈されたとして、C市の博物館が農具を専門とする博物館であればA市の唐箕をC市の博物館で収蔵する。つまり地域を超えて分野別に資料を収蔵するという意味だったんです。もちろん各地域でも教材用などで農具1セットを持っていることは必要だと思うんです。ですが、それ以上に同種の資料の保存が必要な場合、たとえば同一の唐箕が見つかった場合はどうでしょうか。それぞれの市でバラバラに持つのでは資料に対する専門性が曖昧なままになってしまう。場合によっては価値判断ができなくなる。ですので、専門に扱っている博物館に収蔵先を移すという考えです。
そうするとA市には唐箕が入るはずだったスペースは空いたままです。そこにはC市で別の種類の資料、たとえば家電製品の資料収集の打診があった際には今度はそれを専門とする分担先の博物館が収蔵を考える。収蔵するかどうかの判断は、それぞれの専門を担っている博物館が下す。分担する博物館は、その分野の資料の専門館ですから情報も集積されていて新規の寄贈や見つかった資料に対して受け入れを判断する。その判断は個々の博物館がバラバラに均等に資料を集めている状態よりも明確になるのではないか。そういった発想でした。私は植物が専門ですので重複標本の重要性、分布や年代の情報の大切さは分かるんです。民具も同様な考え方です。ですが、民具は大きさや形態、由来や来歴が自然史資料以上にバラバラなのですね。ですので価値判断をするのは非常に難しく、受入や収蔵の判断も含めて近隣の博物館が分担することによって連携と進行がスムーズになるのではないかという1つの提案でした。
会場参加者2:今のような形で分担するというのは、そういう意味であれば活用の面では非常に有効だと思います。分かりました、これなら大賛成です。
宇仁:本間さんの発表で「たこ足」をさまざまな名称で検索しても北海道博物館ではヒットしないというスライドがありました。北海道博物館では水稲直播器という資料名を使っているのです。私たちが考えていた種まきではない、種という語が入らない名称でした。そのために北海道博物館のデータベースでは当たらなかったようです。発表で使われた検索ワードは「たこ足、たこあし、蛸足、多足式、籾蒔機」です。北海道博物館の検索結果では「播種機」で1件、「はしゅき」で2件、とありましたが、いずれも水稲直播器では無いと思われます。民俗資料の名称での検索はこのように難しいのです。
Zoom視聴者1:(宇仁)Zoom視聴者の方からの質問です。本日はありがとうございます、民具や産業資料に見られるデモンストレーションや動態展示としての保存や活用の資料価値はどのように位置付けられるでしょうか?民具、小学校での活用などの事例を伺って、活用における消耗パーツの保存などの視点から関心を持ちました。という質問が来ています。東京農工大学の学芸員の方からです。どなたか回答をお願いします。
持田:私のところ、浦幌町立博物館でも民具の重複資料を動態保存といいますか動態活用をしています。資料を実際に動かすことによって、どのような使われ方をしていたのかという二次情報の部分は静態展示に比べて非常に大きな価値を持っていると考えています。たとえば唐箕も実演して活用するとですね、私の地域は農村ですので、ここにはこういう袋をつけて動かすとロスが少なくなるとか、ここにはこういう金具を挟んで使うと回転数が調節しやすくなるだとか、いろいろな経験談を集めることができるんです。さらに1世代前の大正時代の農具になってしまうと、じつは動かし方がよくわからないような農具もあるんですね。実物としては残っているんです、形はそこにあるんだけれども、実際には活用できていない資料となっている。動かすのを見たことがある、おじいさんが動かしてるのは見たことがある、でももう私はよく分かりませんという人しか町内には残っていない。そういう現実を考えると、博物館が資料を動かし続けていくというのは、その資料の価値を継承するうえで1つの重要な要素であるだろう。そういう風に考えていています。そういった意味で動態保存や動態展示は資料の価値の保存でも大きな意義があると考えています。質問の意図について、捉え方が間違っていたら申し訳ないんですが
Zoom視聴者1:(宇仁)質問に続きがありました。たとえば消耗部品などはどのようにしていけばよいでしょうか、動態保存することによって消耗してしまう部分があるかと思います。
持田:これはおそらく資料の種類によると思います。当館で動態活用してる農具に関しては、消耗品については経験のある農家の方に実際にメンテナンスをしてもらい、部品も作ってもらっています。資料の動態活用によって博物館が資料を動かしているので、博物館が資料を動かせるよう経験のある方がメンテナンスのための道具を作ってくれたり、そのための技術を博物館に教えてくれるというケースもあるんです。けどもこれが静態で展示されているとそういったきっかけが起こらない。いざ必要な時には、もうどうしようもならなくなってしまうケースもあると思います。ですので、動かしながら見せることで、資料の動きの維持やそれに必要な部品、さらには技術の確保がある程度可能になる。ただし、これができるのは限られた資料です。全ての資料において可能ということにはなりません。たとえば、おおかたの工業製品ではむしろ大きなリスクを背負うことになると思います。極端な話ですが、パーツの剥ぎ取り用の重複資料を1点置くなどの準備や対策をしないと動態保存はリスクが非常に大きいものになってしまうと考えています。
Zoom視聴者2:(宇仁)Zoom参加の川越市立博物館の方です。持田さんへの質問です。各館それぞれ使命を持って活動しているなかで、各館ごとに収集する資料の基準が異なる場合、資料収集や収蔵を分担した場合に基準はどういう風にしていけば良いかと考えていらっしゃいますか。
持田:これは資料の地域性に関わる話と思います。私は専門ではないのですが、民具は使われていた場所で保存する、それで初めて意味があるという考え方が存在すると思います。私もそう思っています。資料が地域を離れて保存されることは、資料が本来持っている意義や地域で考えられてきた意味から離れてしまうことにつながる可能性があります。ですので、資料の集約や分担収蔵は民具が持っている民俗性や資料性、資料として一番重要な部分を曲げてしまう恐れがあるのは確かです。私自身、分担収蔵を提案していながら感じています。
これまで資料の名称の問題が出てきていました。これに関連して20年か30年ぐらい前だったと思いますが、自然史博物館ではデータベースを作るために学名のシノニム[無効となった同種異名]の扱いなど、かなり議論をしながらデータベースを作っていた時代でした。当時、民俗資料もデータベース用に民具の名称を標準化したら良いんじゃないですか、と軽く言ったんですね。そうしたら、民具というものはそういうものではない、地域の長い歴史のなかで地域の呼び名が付いてきている、そういったもの地域から切り離して標準名を付けるという考え方がそもそもあってはならない、というお話を聞かされたのです。資料を分担収蔵する、資料を縦に、つまり種類で分類してしまうと資料が本来地域で持っていた属性を誤って分類識別してしまうかも知れない。言い換えれば、非常に中央集権的な資料の切り分けになってしまう。このような恐れは確かにあると思います。ですので実際に分担収蔵をやるならば、相当大きな議論が必要になるだろうと思っています。この議論に対する答えは申し訳ありませんが、私は今は持っていません。
ただ、現実を考えると、地方では収蔵庫の狭小化や老朽化が問題になってきています。もし何もしなかったら、首長や議員、さらには経済界など博物館以外のどこか大きなところから、収蔵庫の取り壊しを迫られるような問題が出てきた時に対処できなくなる町村が出てくるのではないか。そういったことを予見して、今のうちから早めに博物館の内部から資料の行き先や保存の方法について提案する、いろんな角度から検討していく必要があると思っています。それを踏まえて、1つの提案として資料の分担収蔵なのです。実際に実行するとなるとご指摘いただいた問題というのは当然出てくると認識をしています。
Zoom視聴者2:(宇仁)今の川越市立博物館の方はもう1つ質問があったんですが、今お答えになった内容でした。民俗資料は地域で資料が揃っていること、その地域にあることで意味がある。それを切り離すことはどうなんだろうかという内容でした。
【チャットの記述】モノが資料になる前、つまり実際に生活で利用されている時には、当然ですが分野ごとに分かれているわけではありません。民俗資料が生活の移り変わりを明らかにするための資料だという前提に立つと、特定の地域において利用されてきた民俗資料(「身辺卑近の道具」=身の回りにある当たり前の道具)を、分野に分けず収集していることには大きな意味があると考えます。「収蔵資料分担」では、複雑で地域性のあるわたしたちの生活の移り変わりを示す資料として保存し得ないのではないでしょうか。
宇仁:フランスでは国の博物館の協議会があるという話がありました。日本の場合は個々の博物館に資料の検討会があったりしますが、博物館を横断するような資料検討の場は多分ないと思うんです。国立博物館を横断した協議会が存在するフランスの場合、協議会が資料を振り分けを提案することがあるのでしょうか。
ベルトン:正式には分からないです。県の博物館が連携してる場合が多いので、もしかしたら資料の振り分けがあるのかも知れません。学芸員が1人など少ない博物館に大規模館から応援に行くなどの連携がありますので。文化省で地方行政を担当している文化局があるので、できるのかも知れません。国立博物館の資料を地方の博物館に委託して保存させることがあるので、場合によっては新しく購入した資料についての振り分けもあるのかも知れません。
宇仁:データベースを整備するうえで特定の館が特定の資料に特化するっていうのは好ましいことなんでしょうか
本間:データベースは資料を管理しているところが管理していけば良いと思います。データだけをどこかに集約することのメリットは特に思い付きません。
宇仁:現在、地方の博物館では国際基準などはほとんど考慮せず独自のエクセルのカラムに項目名を付けています。外部の人には入力内容がわからない、名称も統一されていない状況でバラバラなデータベースが構築されています。つまり各地の博物館の資料を統合して検索するのが非常に難しい状態になっています。自然史系の資料では、国立科学博物館が主導するSネットが全国の博物館の資料データについて標準化を非常に強力に進めています。ところが民俗資料には、そういう動きが今のところ無さそうに見えます。バラバラにデータベースをそれぞれの館で作っていくのか、特定の館が得意分野を一括してデータベース作るかという選択でしょうか。
本間:あくまで検索を考えた時には、フォーマットをどのように揃えるかという部分はあまり意味がないと私は思います。検索は何とでもなりますので。そこにこだわって作業が遅れるのであれば、とにかく早く進めていく方がよいのではないでしょうか。
Zoom視聴者3:(持田)チャットに本間さんあての質問が来ています。東京文化財研究所の研究員の方からです。今の質問と少し重なるのですが、民具の場合は地域名称が多様で、しかも地域名称が研究上重要な意味を持っている場合が多いです。データベース化して一括で文字検索できるようにする場合、どういう標準和名を付けるかなり難しいというより、研究が進んでいる民具を除いては現実的にはほとんど不可能だと思います。むしろ画像検索の方に可能性が見出せるのです。どのくらいの時期にどの規模で実現可能性があるのか、どのようなステップが必要なのか、具体的な部分がもう少し分かれば教えていただきたい。
本間:画像検索は日進月歩の領域ですので、数年で相当なところまで行くと思っています。一方、現在の博物館が提示している写真データを見るとですね、基本的に一般ユーザーの人が見て分かりやすいような感じの斜めから撮影した構図が多いようです。けれども、例えば、真横、真上、真正面からといった工学的な3分割のような写真データにしてもらった方が、おそらくヒット率は圧倒的に上がるかもしれません。ですので、そこを見越した撮影や画像データといったところを議論するといいのかなと思います。たとえば唐箕を考えてみましょう。あのような複雑な構造体を画像でマッチングさせるのは、一部を撮っているのか全体なのか、どの方向から撮っているのかによって相当難しい場合があるでしょう。現在ではGoogleの画像検索が普通にできますので、皆さんもどれか1個の画像で検索されてみると、どの博物館に同じようなものがあるかはバっと出てきます。けれどもかなり違う形態のものも出てきます。やはり検索するための標準の部分については、なるべく正規化された標準的な撮影方法をふまえた画像にするべきだと思います。
Zoom視聴者4:(持田)ベルトンさん宛てにチャットで質問が来ています。フランスの用語集の紹介がありました。そこでは民具の名称の多様性はどのように集約されているのでしょうかという質問です。
ベルトン:この用語集は博物館学の用語集です。民俗資料の名称やその類義語といったものは載っていないものです。実際問題として、フランスでは1つの資料に対して、いろんな名称があることは多くないのです。おそらく日本は方言が多い、他方フランスは早い段階で標準語というのでしょうか言葉が統一されていました。結果、民俗資料の名称の問題が少なくなったと思います。
持田:Zoom視聴者さんからのご質問です。沖縄県豊見城市では早稲田システム開発の I.B.MUSEUM SaaS を使っています。資料名については、神奈川大学国際常民文化研究機構「民具の名称に関する基礎的研究」で、共通名や地域名についての表記案がまとめられており、それらを参考に共通名、沖縄県地域名、市町村地域名の3段階でメタデータを作成しています。その上で、県のまとめ役機関で検討する必要があるかと思います。現在、そのような名称やメタデータの検討を含むまとめ役機関として活動している博物館の事例があれば伺いたい。
本間:勉強不足ですみません。まさに今その事例を教えていただいたので、これから研究を進めていきたいと思います。取りまとめをされている館の具体的な情報は、現時点では私は持っていません。
宇仁:会場にいらっしゃる国立歴史民俗博物館の方に現状について答えてもらってもよろしいでしょうか。
会場参加者4:当館で実施している複数のデータベースの取りまとめにおいては、用語の統制はまだ実施できていないところです。用語統制のための辞書を作るなどの必要性は十分認識しており、検討はしていますが、全国歴史民俗系博物館協議会(歴民協)としても、まだできていない状況です。
宇仁:残り2分程度になりました。今後の課題は膨大でまとめるのが難しいなと思っています。小規模博物館での民俗資料ということでまとめに入ります。小規模館では、独自にいろんなことをやってそれぞれに行き詰まりを抱えている。ですので、まずはお互いの状況を交換する、一部解決しているようなものがあればそれを共有していく、そんなところから始めていくと段階だと思えてきました。将来的な分業や分担収蔵の話も提案され、これはかなり大きい議論を今後呼ぶだろうと予想します。フランスの例を見ると、「フランス博物館」では、資料を登録してしまうと法律上の文化財となり廃棄や除籍はできない。このように法律を厳しくすると、博物館では慎重になり登録をしない、一旦受け入れたけども登録をしないという対応をする、このような現実も知りました。フランスの状況で私たちにとって非常に教訓や勉強になったことは、資料は受入前に収蔵するかどうか検討する、そういう時間を十分取ることの重要性です。民俗資料の受入や収蔵について、小規模博物館にとっても必要な手続きであることを実感できました。利用者からすれば、収蔵資料を利用したい場合、目的の資料がどこにあるかを探す必要があります。この面からもデータベースの整備が急がれるわけです。しかし、現実は各館がバラバラに進めている状態です。各館がそれぞれに構築しているデータベースについて、複数の館を検索して何の資料がどれだけ収蔵されているかを具体的な数字で見る機会はこれまでほとんど無かったと思います。単独の館を調べることは行なわれていると思います。ですが、目的とする資料名を検索して結果を比較した報告というのは見る機会が無かったのではないでしょうか。本間さんが示されたヒット数を数えるというストレートな方法、特定の資料に関する論文を検索してもノイズ情報が多く目的とする資料を記したものになかなか当たらない話など、民俗資料の情報化やメタデータの検討は本当に基礎的なところから進めていくことが必要であることを改めて感じています。
時間となりましたのでフォーラムはここで閉めようと思います。本日は参加してくださり、たいへんありがとうございました。Zoomでの参加は100名を超えています。会場は13名でしたが、全国から100名を超える参加者を得て盛況だったと思っております。ありがとうございました。
・アリス・ベルトン先生にご質問です。フランスの博物館の義務の中に「教育部」を持つことがありましたが、この教育の対象は誰になるのでしょうか。一般市民に対する教育でしょうか。
(ベルトン:後日の回答)教育部の活動は主に小・中学生と高校生を対象にしています。学校の教員と連携したりしています。また、家族連れの際、子供を対象にして展示を考えたりしています。子供が楽しめるようなパンフレットを作成したり、展示場で特別なコーナーを儲けたり、活動は博物館によって、博物館の規模にもよっていろいろです。
・フランスでは最近、アフリカの文化財を返還する特例法が定められましたが、資料の除籍(譲渡、廃棄など)のための特例法につながる動きはありますか。また、今後の可能性について、個人的な見解でも結構ですので、お教えいただければ幸いです。
(ベルトン)Sarr & Savoy Reportのことですね。文化財になった経緯に過ちがあった以上、譲渡という扱いとはしていないようです。この返還に関しては Sarr & Savoy Report というレポートが公開された後、「返還基準」*というような報告書も作成され、法律上どのように例外を許可するかという方向で進められました。そして返還も、まだ少ないですが実現しています。ただ、全博物館資料への拡大というような動きは見られないようです。
* RAPPORT À l’attention de M. le Président de la République pdf 2.4 MB
(質問者)もともと所有すべきものではないので、譲渡ではない、という理解がされているとのこと、理解しました。ありがとうございました。
・地域の民具資料の背景、どうして集めてきたのか、ということを研究している。日本の地域に集まっている民具コレクションについて:いろんな地域に同じものが集まっている。または、情報が記録されていなくて、研究対象としての情報が少ない。→後世に残ったとき、研究が難しい。フランスにも同じような課題はあるのか?
(ベルトン)どのような資料が多いかなどの細かいところは分からない。ただ、フランスでは、情報がそろっていない場合は目録に載られない。情報が分からないまま目録に載せてはいけない。フランスはエコミュゼが多く、地域の使われていない農具を持ってきて展示している。その時点で情報を収集しているはずだが、確認してみないとわからない。私の認識だとそれほど問題は起こっていないように思う。情報がなくて記録されていない資料もあるとは思う。
(ベルトン:後日の回答部分)現在、博物館に保存されている民俗資料のうち、情報(収集者、収集年月日、名称など)が不完全な例、資料の移転の際に生じる紛失した資料につける番号など、目録番号との不整合が生じる場面や情報不足はもちろんあります。ただし、資料を研究する、資料について情報を集めるのが博物館の仕事ですので、ある程度の情報は集まっているはずです。また、民族学・民俗学と博物館のつながりで調査・収集 « enquête-collecte » が基準となった戦後からは必要な情報が得られているはずです。
ただ、博物館によって差があるので、どれほどの情報が集まっているのかを把握して一般的に答えるのは難しいです。1990年代からは資料[ objet、オブジェ]の目録の情報化だけではなく情報としての資料[ ressource documentaire、文化資源]のデジタル化が進んでいます。これもアーカイブです。
現在の収集・購入方法では、民俗資料の扱い方や作り方に関する情報が不足していた場合、自動的に博物館が受け入れないのではなく、資料の価値が証明できるかどうかで判断されるようになっています。そのなかで、所有者や年代、場所がはっきりと把握できない場合は価値を評価できないので、考慮されていると思います。
・同じものがあって困っているということは、フランスでもあるのか?
(ベルトン)資料の数量や収蔵庫のスペースで困っている博物館があるのは事実です。ですが、同じ地域で、あるいは地域による独自性に欠ける同じような資料が多くて困っているケースなどは今のところ分かりません。
・フランス博物館で8千万点の資料がある。そのうち自然史で7千万点。ところが、資料データベースでは67万点と差があるのはどうしてか。またそれは統一フォーマットでしょうか?
(ベルトン)67万点というのはインターネット公開している資料データベースJocondeでの数です。個々の博物館や県レベルで運営されているネット非公開のデータベースや目録の数字との差は存在します。統一された情報化がまだ終わっていない段階ということです。
参照:フランスの文化遺産データベース POP: la plateforme ouverte du patrimoine
・フランスの国立図書館とナショナルアーカイブである先生の資料が一括で入った。どのように活用するかというプロジェクトが走っている。全体を見渡すような法律がどういう体系でできているか知りたい。
(ベルトン)フランスの文化遺産法典には、アーカイブ、図書館、博物館、考古資料・遺跡、そして建築が含まれています。どれもが文化財という認識です。ですので博物館の資料と同等にアーカイブも公開義務があります。デジタル化して活用できるようにする、あるいは図書館でアクセスできるようにすることが目指されています。
・質問ではありませんが、当館も早稲田システム開発の I.B.MUSEUM SaaS に移行中ですが、民俗資料だけ備考欄ばかりが膨大になっており、名称の標準化についてはきちんとした議論が必要なのではないかと思います。(自然分野の学芸員から見ると)
・今回資料分担の考え方は大変刺激的でした。それを受けてデジタルアーカイブでカバーすることも可能ではないかと思いました。
・持田さんのおっしゃる分担・分業制は難しいと思いますが、情報共有からの価値を見出す・広めるといった活動は、例えば少人数の近隣の学芸員グループで始めていくことも大切な一歩だと思いました。ひと昔前よりも、博物館間の関係が少し希薄な気がしたので、危機感はずっと抱いております。フランスの事例もわかりやすかったです。
・収蔵庫不足は課題です、勉強になりました。
・収集保存にはさまざまな問題があり、みなさまの真剣な取り組みは大変参考になりました。