資料の廃棄が話題になるにつれ、公立博物館の館長や学芸員から除籍資料の法的扱いへの疑問が口にされるようになってきました。備品台帳から除籍した資料、つまり資料の所有権は放棄し、財産としても手放したが、依然として物体としては博物館や収蔵施設内に存在する資料の法的扱いはどうなるかという疑問です。そこで勉強会を考え、北海道の弁護士会にリモート講師を打診しました。依頼内容は次のように伝えました。
公立博物館の資料の収集や廃棄の場面での所有権に関する疑問について、リモート研修会に講師として参加してほしい。たとえば下のような事例について。テーマについて、勉強会をするまでもなく文章での回答で十分と判断されるならば、それでもよろしいです。
1)博物館が収集した資料の所有権は何時から公立博物館に移転するのか、また地方自治法による財産としての計上はどの地点で始まるのか。①資料を受け入れると決めたが備品登録の手続き未遂で原所有者の家屋内に資料がある場合、②受入を決めたが正式に備品として登録する決裁が下りる以前の資料、③博物館が収蔵しているが寄贈に関して書面での手続きが無い場合。
2)民間有志が博物館に寄贈したいと資料を持ってきた。博物館として後日回答すると伝えたが、有志の人たちは資料を博物館に置いて帰ってしまった。①博物館が受け入れるかどうかの方針を回答するまでの当該資料所有権はどうなるか、②博物館は不要と判断したが有志は資料を引き取らない場合の当該資料の所有権はどうなるか、③それらの廃棄などの責任者は誰になるのか。
3)博物館資料が備品として登録してあったが除籍処分とした。除籍は書類上の措置であり物体自体は博物館が保管している。このような場合の所有権や地方自治法での財産としての扱いはどうなるのか。
ところが返答は「講師の派遣はできない」でした。受付窓口の弁護士は理解してくれ、専門部会につないでくれたのですが、専門部会が断ったとのこと。理由は、個別事例なら専門家としての助言は可能だが、依頼内容では抽象的過ぎて具体的な話はできずに一般論になってしまう、というものでした。つまり、依頼内容での勉強会は可能であるがネット情報で入手可能な一般的回答になってしまうというもの。やや納得がいかずに地元の弁護士に電話で意見を聞いたところ回答は同一でした。
後から整理してみると、こちらが希望していた質問の意図は大きく分けると2つでした。A:廃棄あるいは除籍した資料の財産としての扱い、B:廃棄や除籍または登録や受入前の資料の管理責任、です。Aについては考察不足のため、ここでは触れません。
問題はBの管理責任です。結論から言えば、台帳上で除籍した資料も物体として存在していれば管理責任が残っています。除籍資料は博物館からすれば無い物、設置者にとっては廃棄備品で会計上も金銭的価値は存在しません。しかし、管理責任は依然として残ったままです。これをゴミ箱のなかのゴミと例えることがあるようです。ですので、除籍資料であっても博物館や収蔵施設の敷地内に存在すれば当然ながら管理責任は引き続き博物館や設置者のものとなるのです。
そして想定される事態は多種多様です。たとえば、「民間有志が博物館に寄贈したいと資料を持ってきた。博物館として後日回答すると伝えたが、有志の人たちは資料を博物館に置いて帰ってしまった」という場合。実際の場面を想像すると、博物館の対応には、①実際に対峙した人、②博物館に持ってきてと言ってしまった人、③学芸員など専門家、④管理職や館長などいろいろな立場や役職、思惑を持った職員が存在するでしょう。学芸員や管理職の了解は得ていないのに知り合いだからという理由で資料持ってきてみて、と気軽に/意図的に回答した結果、学芸員や館長が受入を拒否する資料が目の前に存在する、さらに職員ではない警備委託先の警備員が独断で持ってきて良いと伝えた、有力者が理事者を困らせようとして迷惑行為を誘導した、などのケースが想定できます。
実際には現在の民俗資料廃棄について担当学芸員の同情的な気持ちからは想像できないような現実があるかも知れません。意地悪くシナリオを作ると、実は残置資料はPCBが使われた古い変電所の部品で廃棄物処理のために博物館の職員との共謀であった、などの物語が可能です。そうであるので弁護士会としては抽象的な、あるいは想定が偏った想定事例では法律家として有効な勉強会は難しい、無理だという判断に至ったのでしょう。
それから現実の民俗資料を考えると第3のケースが存在します。それは収蔵施設を取得したときに既にそこに存在していた物品です。廃校を収蔵庫として博物館が占用できたとします。そこには備品の机や椅子、事務機器や書類棚、体育用具などがそのまま残っていた。備品であれば廃校時に備品台帳から除籍されているのかも知れませんが、管理責任はそれとは別に生じます。なかに危険物などが含まれていれば、その処理と費用は設置者と相談となるでしょう。予算付けをどうするか、場合によっては博物館にあてがわれていた予算からの捻出もあり得るかも知れません。
というわけで、台帳上の除籍資料の法的扱いについては、事例ごとに個別判断することが必要で勉強会をすれば解決する性格ではなかったのです。