北海道では、この十年ほどの間に野生動物の調査研究が進展し、ヒグマの生態についてもかなり具体的に描けるようになった。
たとえば知床では電波発信機を用いて個体を追跡し、同じ個体が何度も道路を横断することや冬眠穴の場所が明かにされている。クマ対策要員も配置され、現れた個体の行動を判断し、駆除しない形での対応ができるようになってきた。開拓以来、ヒグマは発見され次第殺される運命にあったが、ここにきて対策がかわりつつある。
クマの側にも変化がある。人間を恐れない個体が多くなっているのだ。近くに人がいてもいっこうに気にせず、のんびりと草を食べていたりする。これは異常事態ではなく、ヒグマが本来持つおだやかな性格が表に出てくるようになったためだろう。
ただし、彼らは野生の動物。適切な距離を保つ必要がある。人間の世界の味を覚えたクマはどうしても悪さをしてしまうからだ。ゴミ箱をあさってまわる野良グマの姿など想像したくはない。
最近、北米でのクマの人身事故の事例を集め、未然に防ぐ方法を述べた『ベア・アタックス』が翻訳された。この本に見習い、充実した野生動物行政がある北海道にしたいものだ。