北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成12年(2000)4月30日

ミズバショウ

連休の頃、道内ではあちこちでミズバショウが見ごろとなる。本州では高原き咲く清楚なイメージが持たれているが、北海道では道路わきでも見かける身近な存在だ。

実は、この花には隠された意味がある。

ミズバショウの咲く湿原を観察すると、カエルの卵がよく見つかる。やや甲高い声で鳴くエゾアカガエルの卵である。彼らはごく小さな沢のたまりや雪解け水がつくり出す沼地に好んで産卵する。そして、そこは北海道から失われつつある原野の姿を伝えているのだ。樹木が覆う池には、ほかにもトンギョや水生昆虫などさまざまな生き物たちが住んでいる。

彼らは小さく目立たずに生きている。住みかの湿地もささやかで、手厚い保護を受けることもない。うっかり工事で無くなってしまう不安が付きまとう。

そこでミズバショウが登場する。来年もこの花が咲くならば、カエルも子孫を残していける。他の生き物も安泰だ。

大きく目立つ白い花。それは水辺の生き物を代表したメッセージだと思っている。忘れるなよと、今年もまた美しい姿で教えてくれるのだろう。


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