トップ|地方における生涯教育で学芸員制度が果たしてきた機能と役割の検証―韓国との比較から

地方における生涯教育で学芸員制度が果たしてきた機能と役割の検証―韓国との比較から

1.研究の目的と内容

 今年2023年4月に改正された博物館法が施行となる。改正法は文化芸術基本法の精神と文化観光の推進を明記し、博物館に文化施設との位置付けを公式に与え、文化観光推進法による拠点施設としての役割を課した。博物館は多様である。その一方で、社会教育機関を自認し、学芸員有資格者を配置して地域の生涯教育に大きな役割を果たしてきた。とりわけ大学や民間教育資源が不足する地方や遠隔地における役割は大きく、博物館が学術世界への窓口となり、学芸員の公私にわたる活動が地域の文化活動や生物多様性の保全に大きく影響している。本研究では、現地調査による事例収集と聞き取りから、地方や地域における博物館での生涯教育の特徴的事例を収集、先行き不透明な博物館に対する学芸員の不安の声も取り上げ、博物館が社会教育機関として機能し続けるための方策を提案する。
 内容は、1)学芸員の地方における生涯教育での機能を明らかにし、2)博物館法改正後の博物館においても生涯教育の役割を可視化することを目的とする。その際、3)日本から移入した学芸員制度を独自に展開してきた韓国との比較から日本の学芸員制度の特徴を明確にすることとした。本研究は北野生涯教育振興会の助成を受けおこなわれた。

2.調査対象と方法

 聞き取りや博物館施設の観察などの現地調査による事例収集、そしてインターネット掲載情報を含む文献調査をおもな方法とした。聞き取りを実施した博物館は、北海道10館、長野県10館、首都圏4館の計24館である。設置者別では、首都圏の1館が大学博物館、長野県の2館が私立博物館、それ以外の21館は自治体設置の博物館である。文献調査は、訪問館が発行する紀要や年報、図録その他の出版物のほか、展示観覧と文献調査だけを実施した博物館が北海道に5館、首都圏に4館ある。韓国の学芸員制度については、日本語が堪能な韓国の協力者の支援を受けインターネットから情報収集し、翻訳サイトで和訳し、協力者の校閲の後に日本語で発表や公開をした。

3.結果の概要

1)地方における学芸員の生涯教育での機能
 調査対象館では各種さまざまな教育活動が実施されていた。活動内容は独自事業に留まらず、教育委員会全体の事業の一貫であったり、首長部局のブランディング事業を兼ねた郷土学習の中心を担う事例、小規模の私立館ながら県外からの平和学習や修学旅行を多数受け入れた活動などが見られた。地方博物館の教育活動は来館者をターゲットにした講座や講演会に留まらず、学校カリキュラムへの組み込み、育成した市民団体の自律的な活動、首長部局の関連事業のコーディネイトなどにおよび、一般の想像よりも幅広く多様であった。指導者も地域内に加え、関係者や関係機関を通じた遠方からの講師見られ、博物館は生涯教育における結節点の役割を果たしていた。

2)小規模博物館での教育普及活動の可視化
 活動内容のアピールは全体に不足していた。年報を発行して詳細な記録を公刊している博物館や簡潔な報告を掲載する博物館がある一方、記述が恣意的で不記載の教育活動が見られる年報、活動内容を報告する媒体自体を持たない館、さらには博物館協議会の資料にも具体的内容不記載の例が見られた。年報をインターネットで公開している博物館は少数であり、公開していても博物館のページから直接のリンクが無い、教育委員会や指定管理者のページに一度飛んでから到達する形式の年次報告書が見られた。小規模博物館の教育活動のネットでの公開状況は多くの館で不十分に見える。この状態は博物館単独の問題ではなく、自治体ウェブサイトの仕組みや設置者のネットセキュリティの考え方に大きく左右される面が大きい。博物館が自律的なウェブサイト運営が困難な構造が存在する。

1−2)について詳しくは:
宇仁義和. 2024. 地方博物館の教育事業の多様性と学芸員の役割. 全博協研究紀要, 26: 1–16. PDF 1.1 MB
地方小規模博物館の教育事業と学芸員の役割:北海道の事例
地方小規模博物館の教育事業と学芸員の役割:長野県の事例
平塚市博物館年報を読む

3)韓国の学芸員制度と博物館
 韓国の博物館制度については、「諸外国の博物館政策に関する調査研究報告書」(日本博物館協会 2014)や「アジアの博物館と人材教育 東南アジアと日中韓の現状と展望」(山形眞理子・德澤啓一編 2022)などで紹介されているもの、いずれも部分的な概説にとどまっている。韓国の博物館法は改正が頻繁におこなわれており、印刷媒体では最新版に追いつくことができない。これは2016年に制定された動物園水族館法も同様である。本サイトでは機械翻訳とネット情報、そして現地の協力者の支援を得て韓国の博物館と学芸員の制度と実際を紹介している。
3)について詳しくは:
宇仁義和・オンゼウォン. 2024. 韓国の学芸員制度と博物館:日本との比較から. 博物館学雑誌, 49(2): 73–86. PDF 1.2 MB
韓国の学芸員制度と博物館:日本との比較から」(オンゼウォン氏との共同発表)全日本博物館学会第49回大会(2023)ポスター発表 pdf 1.5 MB
韓国の博物館美術館法
韓国の動物園水族館法

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