ヨーロッパの博物館めぐり7

ルーブル美術館

ルーブル外観

ルーブル美術館 Musée du Louvre はパリの中心に位置する世界で一番有名な美術館だ。展示、立地、知名度、どれをとっても他館を引き離す抜きん出た存在感がある。絵を美術館で見るのは近代博物館が成立してからのこと。そして近代博物館の始まりのひとつがここルーブル美術館なのだ。美術品が公共のものとなって200年あまり、超有名館では大量の入館者の対策が課題となっている。美術品はどうあるべきか、どのように味わうべきか、あらためて考えることが必要なのかも知れない。

ガラスのピラミッドは地下の広場の天窓

通路で発表会 ガラスのピラミッドは入口兼天窓

ルーブル美術館の年間来館者数は世界一。900万人近くで、大英博物館やメトロポリタン美術館の倍近くである。が、実際に訪れてみるとロンドンやニューヨークとは桁違いに多いのではないかと驚くばかりの混雑ぶりだった。さらに、来館者の多くが特定の作品、モナリザを目指し一直線に進むという、他館では見られない特異な行動を示す。混雑と集中に対する回答が1989年に完成したガラスのピラミッドだった。一般的な紹介や作品解説は他を参照してもらうとして、ここでは来館者の誘導対策について述べてみたい。

ガラスのピラミッドができる前、パスやチケットを持たない入館者は野外で行列して入館券を求めていた。晴れていればよいが、冬の寒さや雨の日はたいへん不快な思いをしていたのである。博物館は公共施設なので、必ず無料部分があり、そこで入館者はまずそこで雨風をしのぐのだが、ルーブルの場合は建物の構造から滞留できる部分が少なく、何よりも異常なまでの入館者数を受け入れるのは不可能だった。どうするか。たとえば大英博物館はもともと入館無料なのでチケット購入での行列が出来ない、そして隣接した建物の間に屋根を掛けてグレートコートを作りだした。しかしルーブルの場合は建物の配置上、地上に屋根を掛けることは難しく、美観的な問題もあったのだろう。解決策として選択されたのが、コの字状に配置された建物の中央部分に無料の地下空間を新設することだった。ガラスのピラミッドは地下への入口兼太陽光を取り入れる天窓なのである。

ピラミッド外 ピラミッドの下
地下空間中央の案内所 モナリザのあるドノン翼の入口
上段 左:ピラミッド越しに見る地下空間、右:らせん階段を降りると無料の地下空間に出る。
下段 左:地下空間の中央には案内所がある、右:モナリザがあるドゥノン翼の入口

毎日が初詣

通路で発表会 通路で発表会 スーパーコンピュータのクレイ Cray-2 左:モナリザに通じる通路はいつも混雑が激しい
中:モナリザのあるドゥノン翼 Denon のイタリア絵画部分は自然採光
右:ドゥノン翼のフランス絵画も自然採光、人工照明も含め油絵の部屋はとても明るく驚くほど

それにしてもルーブル美術館の混雑は尋常ではない。ただ人が多いだけでなく、モナリザとミロのビーナスの2つの作品に入館者が集中するという特異な状況にある。おそらくモナリザだけ見て帰る人も相当いるはずだ。モナリザの前はたいへんな人混みとなるのだが、鑑賞する人より写真を撮る人の方がはるかに多い。これも異常である。ルーブルの人混みの動き、一点を目指し拝んだら帰るという行動に似ているは日本の初詣だろう。東京国立博物館の新春企画「博物館に初詣」が毎日実践されている。

アップルストアもある地下街

逆さピラミッド 逆さピラミッドは地下鉄駅につながる地下街の入口にある

ルーブル美術館はパリの中心にある。もともと立地がよいうえに大量の入館者が集まる。地上にはアーケード商店街ができ、それに地下街が加わって、大きな商業地域ができあがっている。この点も神社仏閣の門前町やみやげ物街とおなじだ。ルーブルは宮殿から神社になったのである、おそらく。

さて、絵画を見るのは美術館という認識がとくに日本では強くある。しかし、絵画は宗教的あるいは個人的な鑑賞目的で製作されることは、現在でも普通のことだ。確かに美術館は数多くの絵画や作品が展示されているので、比較検討する美術の勉強には最適な場所である。とはいえ、鑑賞目的ならば作品は本来の場所で見るのが一番だろう。宗教画は教会で、仏像ならお堂で対面するのがふさわしい。博物館が成立して以降、教会やお寺、お宮さんも公共性を強く意識するようになった(と思う)。美術品こそ分散と多様が必要、そんなことを考えた。(2012.3.7訪問)

雑貨店 アップルストア 模造品を売る店
左:地下鉄駅の近くの美術品あるいは雑貨屋、中:地下街にはアップルストアまである、右:美術館からすぐのところにあるレプリカ店

【行き方】メトロのパレロワイヤル・ミュゼドゥルーブル駅 Alais-Royal–Musée du Louvre から徒歩3分、地下街でつながっているので雨の日でも濡れずに行ける

モナリザの写真を撮る人たち
モナリザの写真を撮る人たち。フラッシュ禁止なのだが、あちこちで光っていた
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