パリ植物園 Le Jardin des plantes はセーヌ川の南側、オーステルリッツ駅の近くに位置する。フランス革命以前は王立植物園としてあったが、週に数日は市民に開放されていたそうだ。このあたりは荒俣宏監修(1991)『ビュフォンの博物誌』の序文に詳しい。現在も無料で入園でき、植物園というより公園といったおもむきだ。子どもからお年寄りまで、観光客から勉強目的までさまざまな時間を過ごすことができる。
パリ植物園の始まりは1635年設置の王立薬草園で、自然史博物館は1793年の設立。4棟からなる大温室 Grades Serres du Jardin des Plantes、5.5 ha とちいさいながらも動物園 Ménagerie、鉱物学地質学展示館 Galerie de Minéralogie et de Géologie、歴史資料館 Cabinet d'histoire du Jardin des Plantes などがあり、自然史研究の成果や過程を実際に見て体験することができる。他に植物学館 La galerie de Botanique があるが、収蔵資料の保存のため修復を決定、現在は公開されていない。
日本ではフランス語の情報は少ない。というより、美術やファッション、食べ物に集中している。博物学ではリンネとダーウィン、やや遅れてシーボルトだけがもてはやされる。これは絵画で印象派(と最近ではフェルメール)があの手この手で繰り返される状況とおなじことだ。その点、西村三郎さんや荒俣宏さんの仕事は全体に目配りができていてありがたい。そして実際に来てみれば日本とは別の常識や歴史が存在することを知る。
歴史資料館は正門とは反対側にある。進化大展示館や大温室からは比較的近い。有料の施設のためか入館者は少なく、受付では「公園の歴史の展示しかないが、それでも入るか」と聞かれた。ここの展示も中心はビュフォンである。訪問時はキリンの特別展を開催中だった。これは1827年にフランスにはじめてキリンが連れてこられ見世物にされたときの話。展示資料は手紙や絵画版画、書籍などが中心だが、グラフィックはしっかり作ってあり、独立した展示室で行われており、ちゃんとした特別展だった。個人的には動物の挿絵がすばらしい当時の博物学書がよかった。
パリ植物園のガイドブックはよくできている。歴史を軸に園内施設も含んだ内容で、古い絵画や歴史写真も豊富に取り入れ、ちょっとした博物学の物語りとして見るだけで楽しめる。パリ植物園は日本でいえば上野公園にあたる場所だ。上野の方が美術館やホールがあって盛りだくさんだし、恩賜公園の歴史資料館はほしいところ。国立の博物館を含めた総合ガイドがあってよいだろう。
左:植物園の歴史資料館ところで植物園のラマルク像の近くには人間に襲い掛かるヒグマ像がある。彫像としてはきわめて特異なテーマでなまなましくてぎょっとする。これはエマニュエル・フレミエ Emmanuel FREMIET 1824-1910 によるものだ。歴史資料館にはヒグマ像のミニチュアがある。その解説によると、フレミエは19世紀の著名な動物彫像家で、ヒグマ像は1884年に国が発注したもので翌年サロンで展示、彼の主要作品という。植物園に立つものはそのレプリカ。古生物学比較解剖学展示館の玄関にも、彼の手による人間に襲い掛かり首を絞めているオランウータンの母子像がある。なぜこのような作品が作られたのか、それを博物館や植物園といった公共の場所で展示しているのか。とても興味深いが理由は探せないでいる。(2012.3.7訪問)
ガイドブック:Stéphane Deligeorges, Alexandre Gady and Françoise Labalette. 2004. Le Jardin des plantes et le Muséum national d'histoire naturelle, 64pp. Centre des monuments nationaux, Paris. 9€.【行き方】オーステルリッツ駅 Gare d'Austerlitz から徒歩3分、musée と書いた出口に進むとよい
リーフレット(仏語) pdf 5.9MB、リーフレット(英語) pdf 6.7MB、Le Jardin des Plantes 公式サイト(仏語)
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