カールスルーエ自然史博物館 Staatliches Museum für Naturkunde Karlsruhe は比較的ちいさな博物館で、わざわざ日本から見に行くほどの規模ではない。しかし、ここには1968年にオホーツク海で捕獲され、北海道の紋別で解剖調査されたセミクジラの全身骨格標本が展示されている。これは国際捕鯨委員会(IWC)が想定する捕獲調査「調査捕鯨」の正しい利用法だ。
博物館への訪問時には、ウェブサイトに満足な英語ページがなかったが、現在では詳しい内容が作成されており、セミクジラについても触れられている。
このセミクジラは1968年月に樺太東方沖のオホーツク海で捕獲された個体で、紋別の大洋漁業の事業場で調査されたもの。調査の報告は(旧)鯨類研究所の英文報告に全長1260cmのメスであることが掲載された(Omura, H., Ohsumi, S., Nemoto, T., Nasu, S. and Kasuya, T. 1969. Black right whale in the north Pacific. Scientific Reports of the Whales Research Institute, 21: 1–78.)。
その後の研究で、このセミクジラは頭骨長3270mmの未成熟個体であること、そしてカールスルーエに送られたことが記されている。また、和歌山県の太地町立くじらの博物館に展示されているセミクジラの全身骨格標本も、おなじ捕獲調査で得られたものだ(Omura, H., Nishuwaki, M. and Kasuya, T. 1971. Further studies on the skeletons of the black right whale in the North Pacific. Scientific ditto, 23: 71–81.)。
セミクジラが展示されているのは極地の展示コーナーで、資料には南極海捕鯨の写真やペンギン、そしてホッキョクグマや鰭脚類が含まれている。捕鯨の写真はシロナガスクジラやマッコウクジラの解剖、そして日本ではおなじみの鯨体の利用部位と製品とを図示した説明が添えられている。自然史博物館で捕鯨や鯨の利用を展示する例もあるのだなと妙に感心した。
左:南極海捕鯨の写真と鯨体利用の図解展示は化石や剥製など自然史博物館に期待するひととおりのものは備えていて、ちいさい水族館のようなスペースもある。そのなかで特徴的だったのは人家に作られた巣で子育てする鳥のジオラマ。レンガ造りの煙突にあるコウノトリは代表的なもので、赤ちゃんを連れてくるという民話もあって、北部ヨーロッパの人と動物の関わりの象徴的な存在を見せている。
博物館の室内は簡素で展示内容に合わせた作り込みをしていないこと。日本の家屋は家具と一体化しているが、ヨーロッパの建物は家具とは断絶しているというが、そのとおり。何の変哲もない空間に展示資料が置かれている。けれども重厚な建物に確保された広い室内空間はどんな資料も包み込む。訪問時は工事中のような雰囲気で、玄関の照明も消えており閉館中かと思ったほど。ミュージアムショップもこぢんまりとしたものだった。今は違っているかも知れない。(2012.2.29訪問)
左:コウノトリの巣はレンガ造りの煙突にある【行き方】カールスルーエ駅から路面電車で Herrenstraße または Markplats 下車、徒歩7分。
参考ページ The State Museum of Natural Hsitory Karlsruhe(英語)