ヨーロッパの博物館めぐり10

オックスフォード科学史博物館

オックスフォード科学史博物館

オックスフォード科学史博物館は Museum of the History of Science, Oxford はオックスフォード大学の附属である。駅から比較的近く、ピットリバース博物館や自然史博物館の行き帰りに立ち寄ることができる。1683年完成の建物は、博物館として建築され現在もその用途に使われているものとしては世界最古という。ここはアッシュモレアン博物館の設立のために建てられた由緒ある建物なのである。歴史は古いが展示室は1999年に更新されており、ここでも展示室で家族向け講座が開催されている。

現在の科学につながる展示資料

アッシュモレアン博物館のプレート 展示室の入口にはアッシュモレアン博物館の設立年を示すプレートが掲げられている。

この博物館の正式名称に地名や大学名は付いていない。これはロンドンの自然史博物館もおなじで、世界のあるいは地球の博物館という意味なのだろう。収蔵資料の多くは科学の初期の資料で、イギリスのものとは限らない。ここがフランスやオランダの科学史博物館とは異なるイギリスらしいところだろう。そして近代初期の実験器具は装飾が美しく、それ自体が美術品である。だから見ておもしろく、展示に向いた資料といえる。そして展示資料はイギリスやヨーロッパにとって現在に直接つながる物語りでもある

1476年出版という博物館最古の本が展示されているが、500年後の現在の書籍と比べても違いがない。むしろ活字も図版も装飾的でより美しいほど。解剖用具や顕微鏡も現在のものと機能や仕組みに変わりは無い。建築や科学の分野では、数百年前のものであっても現在と違和感なくつながりが感じられる。このあたりが近代ヨーロッパの継続性、歴史の厚みということだろう。

解剖用具 顕微鏡
1476年の本 地球儀
上段 左:解剖用具と模型、右:顕微鏡は年季の入った真鍮製。
下段 左:博物館で一番古い本で天体カレンダーに関するもの、出版は1476年、右:地球儀や天球儀も真鍮製

増加を続ける収蔵資料

マルコーニの無線装置 1909年にノーベル物理学賞を受賞したマルコーニ 1874-1937 の無線装置、2004年にマルコーニ社から寄贈されたもの。

この博物館の設立は1925年、その前年にルイス・エバンス Lewis Evans がオックスフォード大学に寄贈した科学機材の寄贈が発端となった。それ以降もイギリスやヨーロッパからの資料寄贈が続き、コレクションは増大しつづけている。近年では王立顕微鏡学会やイタリアのマルコーニ社からの寄贈品が目立っている。

日本では大学で研究資料を持ちきれなくなり、散逸や廃棄が生じていることが問題として取り上げられ、ユニバーシティミュージアムが各地でつくられるようになった。おなじように学会が気に掛けている歴史的な器具や文献もあるはずだ。これらの資料も行き先として、科学史博物館が必要とされている。

ルイス・キャロルと同時代のカメラ 1820年頃の太陽系儀(手前)と天球儀(奥) 修理を繰り返した床板
左:ルイス・キャロルが使用した湿板セット(1860年頃)は修理中で代わりの写真が置いてあった、左のカメラは彼と同時代のもの、中:手前の円盤は1820年頃の太陽系儀、奥は天球儀、右:木製の床板は何度も修理が繰り返されている

展示室で講座を開催

地階展示室での講座 地階展示室では週末に家族向け講座を行っている。

オックスフォード大学附属の博物館では、家族向けプログラムを週末ごとに用意し、多くは予約不要でその場で参加 drop-in できる。7館で共通パンフレット Free Family Friendly Fun! を年4回発行して人集めにも工夫している。これだけの施設とプログラムがあれば、とりあえずここに来れば何かある、休日を子どもと楽しく過ごすことができるだろう。お父さん大助かり。講座の場所はいたって質素。使用備品は、古いテーブルにパイプイスや昔ながら丸イスで、初期投資はほとんどゼロではないだろうか。地階展示室での講座はこの10年ほど続けているというので、1999年展示更新後に始められたものだ。ここでのワークショップに参加すれば、自然と資料に興味を持つようになるだろう。

ちょっとした場所と講座が可能な陳列方法ができるかどうか、これが今後の博物館において重要な意味を持つに違いない。展示を見るにはちょっとじゃまかもしれないが、そこは子どものために大人が譲ればよいのだから。(2012.2.4訪問)

【行き方】オックスフォード駅 Oxford から徒歩10分
引用文献 Honey, Alison. 2009. My Ashmolean Discovery Book. Ashmolean Museum.
1995年以降は特別展ごとにウェブサイトが設けられ、アーカイブとして機能している。過去の特別展ホーム


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