北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成12年(2000)8月24日

オショロコマ

夏は水遊びの季節である。毎年開催している「知床自然教室」でも川遊びは根強い人気がある。人気の秘密は小さなサケ科の魚、オショロコマの存在だ。

知床の沢の水は冷たいが、ここは思い切って大人が手本を示してドブンとつかろう。そうすれば恐る恐るだった子どもたちも流れのなかに入ってくる。そして上半身を倒して水中メガネでのぞいてみよう。オショロコマの群れがゆったりと泳いでいるのが見えるはずだ。

すると期待どおり、子どもたちが次々に歓声をあげ始める。透き通った水の中、生き生きと泳ぐ魚の姿を見る初めての体験に興奮が押さえられない。テレビや水族館では得られない、「なま」の感覚が頭を活性化させる。

しばらくのあいだ観察を続けた子どもたちは、今度は魚を捕りたくなる。釣りが始まり、たも網が登場し捕獲作戦に熱中する。

してやったりという気分になるのはこういうときだ。子どもたちにはオショロコマと遊んだ一日が印象深く記憶に刻まれ、楽しい思い出を持ち帰るだろう。それは同時に、漠然とした存在だった知床や自然という言葉に、具体的なイメージを吹き込んだことを意味する。

自然の大切さについて話しをするのはその後からでも十分だ。


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