韓国の動物園水族館法|地方における生涯教育で学芸員制度が果たしてきた機能と役割の検証―韓国との比較から

韓国の動物園水族館法

「動物園および水族館の管理に関する法律」の特徴

 韓国では2010年代初めにトラが餓死寸前まで放置された事件や、ショーの訓練時にセイウチが虐待される事件が報じられ、動物園や水族館の飼育環境に対する関心が高まった。 これを契機に、複数の法律に分散している動物園や水族館に関係した規定を統合し、動物福祉の考え方を取り入れた「動物園法案」が国会に提出された。国会では関連する他の2法案とともに「動物園及び水族館の管理に関する法律案」に一本化され、2016年5月で可決された(藤原2016)。施行は翌2017年である。
【韓国】動物園及び水族館の管理に関する法律(藤原 2016) pdf 220 KB
 韓国の水族館動物園法の特徴は、博物館美術館法と同様に国の関与が強く、改正が頻繁におこなわれる進歩的な内容にある。2023年12月まで有効な現行法で、1)動物園水族館を野生動物の保全増殖や調査研究をおこなう機関と定義、2)国が総合計画、自治体が個別計画を定めるなど行政の関与が強い、3)登録制度、4)運営管理の記録と報告の義務化、などである。2022年12月の改正で全18条から32条へと大幅な充実を見た。2023年12月に施行される改正法で追加された内容は、5)ショーの禁止(15条)、6)職員研修の義務化(19条)、7)行政による立入調査や検査と是正命令(22・23条)、8)拠点動物園水族館の指定(24条)、などである。
 いずれも日本の博物館や動物園水族館の関係者では議論されてきた内容であり、韓国が日本に先行していることは明白である。2023年12月に施行された改正法は極めて進歩的意欲的な内容と評価できる。イルカショーが禁止となることは韓国KBSが報道し、日本の動物愛護団体も歓迎している様子が見られる。逆に言えば、韓国の法律の内容は先進的である一方、行政の関与や指揮権が強すぎるのかも知れない。これら指針の提示や優れた園館の公表などはNGOの業界団体がすべき仕事との考えも可能だろう。

韓国の公共放送KBSの報道
動物園・水族館関連法が改正 イルカショーは禁止に|KBS WORLD
動物愛護団体の歓迎
韓国が第一次水族館管理総合計画(2021~2025)を策定。新規水族館は鯨類展示等禁止へ。動物に乗る・触るなどの体験も罰金へ│PEACE 命の搾取ではなく尊厳を

博物館美術館法はこちら
韓国の動物園水族館法の全文【旧法】
韓国の動物園水族館法の全文【改正法:2023年12月施行】

「動物園および水族館の管理に関する法律」【改正法:2023年12月施行】の逐条まとめ

動物園および水族館の管理に関する法律(略称:動物園水族館法)【改正法:2023年12月施行】逐条まとめ

第1条(目的) 法律の目的を野生生物と人との共存する環境の創造とし、その方法に研究、情報提供、動物福祉増進、生物多様性保全、生命尊重価値の具現化を置く
第2条(定義) 動物園水族館の定義に、保全増殖、調査研究、展示教育をとおして野生生物の情報提供する施設とし、さらに大統領令で定めるものと規定
第3条(国等の基本責務) 国と地方自治体が動物園や水族館の展示の適正化や動物福祉、国民の生物多様性の保全意識のかん養ための施策の樹立と施行を義務化
第4条(他の法律との関係) 保有動物の展示、管理、保護に関して他の法律に優先すると明記
第5条(動物園および水族館管理総合計画の樹立等) 所轄庁に管理総合計画の、市・道知事に管轄区域の動物園や水族館の管理計画の樹立を義務化
第6条(実態調査および評価等) 所轄庁に動物園水族館の運営や動物福祉などに関する実態調査を義務化
第7条(動物園および水族館動物管理委員会) 所轄庁や自治体は動物園水族館の動物管理委員会の設置ができる
第8条(許可等) 動物園水族館の運営には、飼育基準や健康と安全の管理計画について大統領令の要件を備え、自治体の許可が必要
第9条(欠格事由)
第10条(許可の取り消し等)
第11条(課徴金) 許可権者は、保有動物の逃亡や公衆衛生の阻害にも課徴金を課すことができる
第12条(動物園および水族館検査官) 所轄庁は動物の生態や福祉に関する分野の専門家を動物園検査官や水族館検査官に委嘱して現場調査することができる
第13条(動物園および水族館の開放と休・閉園) 所轄庁が定める日数以上の一般人への開放の義務
第14条(保有動物の調査等) 所轄庁は特に保護または管理する必要がある飼育動物の調査をすることや管理指針を定めて動物園水族館の運営者に提供することができる
第15条(禁止行為) 娯楽や興行を目的にした保有動物への苦痛恐怖ストレスを加える跨がり、触り、餌やり、および展示による斃死や疾病発生のリスクがある動物の保有の禁止。移動展示も原則禁止。
第16条(安全管理) 動物園水族館の運営者や勤務者の保有動物の安全管理の義務、所轄庁は動物園や水族館の安全管理指針を作成して配布することができる
第17条(疾病管理) 保有動物の健康状態の定期検査の義務
第18条(生態系攪乱防止) 保有動物の逃走と生態系攪乱の予防管理の義務
第19条(動物園および水族館勤務者等に対する研修) 獣医師や飼育士などへの所轄庁が定める機関での研修の義務
第20条(運営・管理記録および保存) 運営者の動物の個体数や出入数、健康状態などの記録の20年保存の義務
第21条(資料の提出) 運営管理資料や開館日数の許可権者への毎年1回提出の義務
第22条(動物園および水族館に対する検査等) 所轄庁や自治体は立入調査や書類・施設設備調査ができる
第23条(措置命令) 許可権者は動物園水族館に是正命令など必要な措置ができる
第24条(拠点動物園・水族館の指定・運営) 所轄庁は教育広報、疾病管理、安全管理、保全増殖などの目的で拠点園館を指定できる
第25条(費用支援等) 国や地方自治体は、危機種や保護種の保全や調査、生物多様性に関する教育広報の事業に対して経費支援できる
第26条(寄付金品の受付) 国や地方自治体が設置した園館は寄付を受け付けることができる
第27条(聴聞) 許可権者が許可取消や営業停止するには聴聞が義務
第28条(権限または業務の委任・委託) 所轄庁の権限を市・道知事、市長・郡長・区庁長に委任できる
第29条(罰則適用における公務員議題)
第31条(両罰規定)
第32条(過怠料)
韓国の動物園水族館法の全文【旧法】
韓国の動物園水族館法の全文【改正法:2023年12月施行】


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