韓国の博物館美術館法|地方における生涯教育で学芸員制度が果たしてきた機能と役割の検証―韓国との比較から

韓国の博物館美術館法

韓国の博物館制度

 韓国は日本を先例として同様の機械や機器、システムや制度を取り入れてきた歴史がある。学芸員制度もそのひとつで、1984年制定の博物館法で学芸員を位置付け、現行の博物館および美術館振興法(1991)に引き継がれている。韓国では博物館の法制化は比較的遅かったものの、1980年代以降の経済成長に合わせるように文化への投資を積極的におこない、2004年にはアジアで初めてとなる国際博物館会議(ICOM)の総会の開催国となった。ソウル大会のウェブサイトは今も健在である。
ICOM 2004 SEOUL
 韓国の博物館制度の大きな特徴は、動物園と水族館を博物館美術館法から切り離し、別に動物園水族館法を制定、主務官庁も異なることである。日本では2018年10月に科博を含め国の博物館行政は文化庁に統合され、昨年改正され今年2023年4月に施行となる博物館法では上位法に文化芸術基本法を置き、博物館を文化施設と位置付けた。国は引き続き社会教育法の特別法としての位置付けも続くと説明するが、2023年1月にパブリックコメントを実施した「文化芸術推進基本計画(第2期)(中間報告)」を見ると科博の名前も生物も自然史の言葉も見られない。今後、自然史博物館や動物園水族館には文化芸術推進施策とは別の枠組みが必要になるのではないか。将来的には日本もこれら生物系の博物館は環境省を主務官庁として別の行政施策としい進めるつもりなのかも知れない。それが好ましいと考える人もいるだろう。その場合、韓国が日本の先行事例となるのである。

博物館および美術館振興法の条文
博物館および美術館振興法施行令の条文
博物館および美術館振興法施行規則の条文

韓国の動物園水族館法はこちら

「韓国の学芸員制度と博物館:日本との比較から」

 韓国の博物館と学芸員制度について、2023年7月1–2日に國學院大學で開催された全日本博物館学会第49回大会でポスター発表をしました。
【要旨】韓国では、博物館は国公私立ともに文化体育観光部が所轄する博物館美術館振興法(略称:博物館美術館法)がカバーし、他省庁の設置館を含め同法による登録対象である。登録博物館は監督者である国や自治体への年次報告が義務化され、その結果、登録館の一覧表や基礎データがネット公開されるなど情報共有が進んでいる。韓国では博物館の専門職員に学部卒者が就くことはめずらしく、採用には修士博士の専門性が求められ、学芸士資格の有無は重視されない。むしろ学芸士資格は勤務実績を審査した結果与えられる称号といえ、私立館の質向上に貢献する一方、国公立館では無資格で勤務する学芸士も多い。韓国の博物館は、国の関与が強く、都市部に集中、韓国史と美術史が主体、自然史博物館が少ない。なお、科学館や動物園水族館、植物園はそれぞれ別の法律の対象である。同業者意識の範囲も日本に比べて狭い。
 ポスター発表「韓国の学芸員制度と博物館:日本との比較から」 pdf 1.5 MB

「博物館および美術館振興法」の特徴

 韓国の博物館美術館法の特徴は、1)博物館と美術館を区分、2)国の関与が強い、3)改正が頻繁、4)動物園水族館は別法、などとなる。2022年の改正では9条の3(博物館または美術館の障害者便宜性保障等)が追加されるなど、時代の要求に応じた改正に応じているという印象を受ける。2条の定義には、博物館の収集資料に動物や植物、科学や技術という文字が見えるが、韓国に自然史博物館は少なく、2003年に開館した西大門自然史博物館 Seodaemun Museum of Natural History が最初という。条文に具体名を記された国立博物館はすべて人文系であり、博物館行政もその方面が手厚いと想像される。そのなかで自然史博物館の運営がどのような状況なのか調べる予定をしている。

「博物館および美術館振興法」の逐条まとめ

「博物館および美術館振興法」の逐条まとめ

第1章 総則
第1条(目的) 文化・芸術・学問の発展と一般公衆の文化享有及び生涯教育増進
第2条(定義) 博物館と美術館を区別
第3条(博物館・美術館の区分) 設立者で、国立、公立、私立、大学の4区分
第4条(事業) 博物館資料と明記するとともに生涯学習関連とする
第5条(適用範囲) 文化体育観光部長官が認める施設
第6条(博物館・美術館学芸士) 学芸士は1級正学芸士、2級正学芸士、3級正学芸士、3級準学芸士、の4区分。資格認定は、準学芸士は試験、正は文化体育観光部長による審査で、資格証が発行される。ICOMの倫理要綱と国際条約を遵守
第6条の2(資格取消)
第7条(運営委員会) 専門性向上と公共施設物としての効率的な運営及び経営合理化のため
第8条(財産の寄付等) 受贈審議委員会を置いて受給可否を決定
第9条(博物館および美術館振興施策の樹立) 文化体育観光部長官は基本施策の確立と施行が義務、中央行政機関の長と地方自治団体の長も当該部分の計画の樹立と思考が義務
第9条の2(博物館および美術館資料収集等の原則) 資料の取得活用等の記録作成管理の義務、資料の保存管理の専門人材や収蔵展示環境の義務
第9条の3(博物館または美術館の障害者便宜性保障等)障害者の利用への適切な便宜提供の努力義務、関連業務人員の配置。[2022年改正の追加条項]

第2章 国立博物館と国立美術館
第10条(設立と運営) 文化体育観光部長官所属で国立中央博物館と国立現代美術館、国立民俗博物館を置く
第11条(設立協議) 中央行政機関の長が博物館を設立するには、事前に文化体育観光部長官と協議する義務。中央博物館、現代美術館、民俗博物館の地方館を置くことができる

第3章 公立博物館と公立美術館
第12条(設立と運営) 地方自治体は大統領令で定める手続きと基準の博物館と美術館を設立できる
第12条の2(公立博物館・公立美術館の設立妥当性事前評価) 設立に先立ち設立・運営計画を樹立し、文化体育観光部長官から妥当性に関する事前評価を受ける義務

第4章 私立博物館と私立美術館
第13条(設立と育成) 法人・団体又は個人は、博物館と美術館を設立できる。国や地方自治団体は設立を支援・育成の義務、私立博物館美術館は第1条第2条に合致した設立運営の義務

第5章 大学博物館科大学美術館
第14条(設立と運営) 大学教育課程の教育機関は、教育支援施設として大学博物館と大学美術館を設立することができる
第15条(業務) 教授と学生の研究と教育活動に必要な博物館資料や美術館資料の収集・整理・管理・保存・展示(その他は略)

第6章 登録
第16条(登録等) 国立館は文化体育観光部長官、公立館は首長や大都市市長に登録する義務、私立館や大学館はは首長または大都市市長に登録できる
第17条(登録証と登録表示) 登録証の発行と表示
第17条の2(変更登録)
第17条の3(登録事実の通知)
第18条(私立博物館・私立美術館の設立計画承認等) 首長または大都市市長は、私立館の設立計画を承認することができる
第19条(遊休空間活用) 首長は所有の遊休不動産を博物館や美術館または文化の家など地域文化空間に用途変更して活用できる
第20条(他の法律との関係)

第7章 管理と運営・支援
第21条(開館) 登録館は文化体育観光部令で定めた日数以上一般公衆の利用できるように開館する義務
第22条(閉館申告)
第23条(資料の譲渡等) 博物館や美術館は、相互に博物館資料や美術館資料を交換・譲与または貸与したり、その資料の保管を委託することができる[2-4も重要]
第24条(経費補助等) 国や地方自治団体は、私立館設立計画の承認を受けた者には、設立に必要な経費を、登録館に対しては運営に必要経費は予算の範囲で支援することができる
第25条(観覧料と利用料) 博物館や美術館は観覧料、その他博物館資料や美術館資料の利用に対する対価を受けることができる

第8章 評価と指導・監督
第26条(博物館および美術館の評価認証) 文化体育観光部長官は、登録後3年が過ぎた国・公立館に対して評価を実施する義務。また、評価結果に基づき優れた館を認証することができる
第27条(認証博物館・美術館の評価認証取消)
第28条(是正要求および定款) 文化体育観光部長官、市・道知事または大都市市長は、博物館や美術館がその施設および管理・運営に関してこの法律または設立目的に違反すれば是正することを要求することができる
第29条(登録解除) 文化体育観光部長官、市・道知事または大都市市長は、登録した博物館または美術館が次の各号のいずれかに該当すれば、その登録を取り消すことができる
第30条(報告) 登録館の長、市・道知事または大都市市長は、管轄登録館の管理・運営、観覧料と利用料、指導・監督現況等の運営現況を翌年1月20日までに文化体育観光部長官に報告する義務
第31条(聴聞) 文化体育観光部長官、市・道知事または大都市市長は、学芸士資格取り消し、設立計画承認取消、停館命令、登録取消では聴聞する義務

第9章 運営諮問・協力等
第32条(重要事項の諮問) 文化体育観光部長官は、次の各号の事項に関して必要な場合、「文化財保護法」第8条により設置された文化財委員会に諮問することができる
第33条(博物館・美術館協力網) 文化体育観光部長官は、博物館または美術館に関する資料の効率的な流通・管理および利用と各種博物館または美術館の相互協力を図るための協力体制として次の各号の機能を遂行する博物館・美術館協力網(以下「協力網」という)を構成する
第34条(協会) 文化体育観光部長官は、博物館または美術館に関する情報資料の交換と業務協力、博物館や美術館の管理・運営等に関する研究、外国の博物館や美術館との交流、その他に博物館や美術館 従事者の資質向上のために必要な場合、博物館協会または美術館協会(以下「協会」という。)の法人設立をそれぞれ許可することができる。国はその経費を補助することができる
第35条(国立博物館文化財団の設立) 政府は文化遺産の保存・継承および利用促進と国民の文化享有増進のために国立博物館文化財団(以下「文化財団」という)を設立する。

博物館および美術館振興法の条文


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