西大門自然史博物館[서대문자연사박물관 ソデムンチャヨンサパンムルガン、Seodaemun Museum of Natural History はソウル唯一の自然史博物館と2003年7月に開館した。ソウル初の公立自然史博物館でもある。市街地から北西、丘の向こうの住宅地のなか1ヘクタールの敷地と延床面積約7,000平方mの博物館がたたずんでいる。開館3年で100万人の入館者を数え、3フロアある展示室も順次展示更新を重ねるなど進化を続ける博物館である。
韓国の博物館は人文系が主体である。なかでも韓国史や伝統美術が中心で、民俗や現代史がそれに次ぐ。他方、国力の基礎となっている科学技術への関心を高めるためか、科学館は各地にあり国立の施設も複数あって充実している。一方、自然史博物館は数少ない。国立科学館では自然史部門が併設されている場合もあるが、自然史の専門博物館は全国でも数えるほど。ソウルでは他に大学自然史博物館が3つあるが、公立館はここが唯一となっている。
国立公園などの生物多様性が保たれた場所や化石の産地などでは、特徴的な地域の自然を主題にした自然史博物館が設置される。それに対して、日本の県立自然史博物館は地域の特徴ある生物や化石も対象としているが、私見では立体教科書的な展示が目立つ。中学校の理科の教科書や資料集に出てくる題材、たとえば太陽系や星の一生、地球の歴史、生物の進化、生殖といった一般的事項の説明をする展示が多いように思う。最近ではSDGsがそれに加わるだろうか。
展示室の第1印象は、やはり立体教科書というもの。それと余白が多い。それから野生生物の解説が生き物そのものよりも保全が中心となっていることだった。日本では江戸時代の絵画に花鳥画と呼ばれる分野がある。これは日本発祥ではなく、中国から伝わったものが独自の進化を遂げたもの。当然ながら朝鮮半島にも東洋画としての花鳥画は存在し、ここでも掛軸を用いた展示があった。もっとも自然史博物館に伝統絵画を取り入れたのは日本が先かも知れないが。
首都ソウル市が作った自然史博物館だけに展示は基本に忠実オーソドックスである。ビッグバンから始まる宇宙の歴史、太陽系の惑星と地球の歴史、そして生物の進化から生物多様性と人類という構成。日本だと科学館にあるようなロケットや宇宙服の展示もあった。朝鮮半島の地質は、プレートが交差し火山が多い日本列島とは相当異なりそう。古生物の展示は直角貝や三葉虫、ティラノサウルスやステゴザウルス、首長竜といったスター達が並ぶ。子ども受けする展示資料が多く、ドイツやイギリスのような大人向け玄人向けの展示とは異なる印象。鉱物の展示は顔料や日常生活のなかでの使用も展示している。とくに伝統的建造物に関連付けた顔料の展示は新鮮だ。韓国語は色彩の表現が豊かと聞く。色への関心は強いのかも知れない。
この博物館、規模は中程度。首都の自然史博物館にしては小さい。したがって展示室も狭くひとつひとつの展示コーナーは小さいのだが、狭い範囲に数多くの資料を上手に配置している。図の使い方が上手いのかも知れない。ちゃんと見て行くと相当に時間が掛かるだろう。展示批評的に見ると、手の込んだ展示と余白が目立つコーナーがあり、完成度がまちまちの印象がある。これは別の博物館や科学館でも感じたことなので韓国の博物館の特徴といえる気がしている。通路は狭く、小学生が座って話を聞くのは難しそう。自分が推している、座れる通路と広場を備えた展示室は東アジアでは困難なのか。
ソウル市街地は内陸に位置するが、海の生き物の展示も多数ある。剥製や貝殻などの乾燥標本と骨格標本の陳列だが、日本ではめずらしいサメの剥製や模型が並ぶコーナーもある。いちばん不思議だったのはマナティとジュゴンの比較展示。どちらも韓国には分布しないし、鯨類のような一般受けもしそうもない。学芸員の趣味なのだろうか。
キャプションはほぼ韓国語のみ。哺乳類の解説や鉱物名だと英語がある、日本語は恐竜と哺乳類の種名のみ。分野によって外国語表記は異なるよう(2023.3.7訪問)。
【行き方】地下鉄新村駅から延世大学を通って徒歩50分。ソウルナビ「西大門自然史博物館」によると路線バス170番で7つ目の停留所だそう。なお、同ページには撮影禁止とあるが、公式英語ページFAQを見ると禁止されているはストロボと三脚と商用利用。
公式サイト英語ページHome//Seodaemun Museum of Natural History