国立中央科学館[국립중앙과학관 チャンセンポコレパンムルガン、National Science Museum]は大田[てじょん 울산]広域市にある。その始まりは日本時代の1927年にソウルに設立された??としている。英語ページの沿革によると、設立は1949年、開館は1962年、大田の現在の施設がオープンしたのは1990年10月のこと。その後も展示館が次々と増設され、展示更新も継続中。とにかく広く施設が大きく数も多い。博物館群といったところ。1993年には大田国際博覧会(万博)が現在地で開催されており、ロケットやリニアモーターカーなどそこから引き継いだ野外展示も見られる。
科学館を名乗りつつ、ここには自然史の展示館がある。日本の国立科学博物館とおなじだ。英名も科博が2008年で使っていた旧英名と同一。建物は新しく20世紀風未来的で無機質。ロンドンや上野の自然史博物館のような玄関ホールは無く、入ると展示室に直結している。出迎えてくれるのはトリケラトプスとティラノサウルス。別の目的の建物を流用しているのだろう。自然史博物館にしては天井が低く、ちょうど梁が通っているので恐竜たちはかなり窮屈そうだ。胸くらいの高さのステージでの展示も恐竜の姿勢を制限している。一方、この高さの展示は迫力を感じる。めずらしい、日本では見ないと思ったのが化石の両側の展示。三葉虫では化石本体と転写された岩石の両方を見せている。
韓国の自然史系の博物館や科学館にはたいてい竹島の展示がある。釜山の国立海洋博物館だと子供用の体験展示室(ディスカバリールーム)にあった。国立中央科学館にも鯨類展示の近くに竹島の地質構造を解説する模型がある。もちろん政治的な目的の宣伝なのだが、日本海は沈降地帯であそこに島がある仕組みなど考えたことが無かった。日本列島だと地震が身近でプレート構造についてもよく知られている。領土と考えるなら遠方辺地でも知識普及をしっかりするべきという手本。
自然史館の2階は人類の展示。案内表示では自然史館と区別して人類学館になっている。アフリカの化石から始まる自然人類学、考古学を経て文明世界までの歩みに加え、近未来をテーマにしたコーナーがある。気になったのは背景写真の使い方。集団での学びではアフリカの草原で暮らす家族、人口爆発はアステカ、国家の誕生ではマケドニアの戦いの後世の彫刻、自然の探求はヨーロッパ絵画。初期人類に近い方がアフリカで現代に近づくと白人。アジアの写真は無かったように思う。自分事は置いた客観的な解説には適切という判断なのか。枚数を抑えるため選んだ1枚は未来の展示コーナー。右側は拡張現実でスポットに立つと自分の姿が猿人や原始人になって正面のモニタに映るというもの。左は「新しい夢を夢見る」コーナー。韓国企業の最新医療の製品や義肢などを展示。
さて、1階に戻り展示を進むと植物や昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類と典型的な分類群による展示コーナーが続く。アジア大陸の一部だからトラやノロ鹿、ハリネズミがいる。鳥は共通で違いはクロハゲワシくらいだが淡水魚はずいぶん違う。といっても移入定着したのも多いが。朝鮮半島からも絶滅したミカドチョウザメは特別に展示されていた。ちょっと目を引いたのは地表性昆虫の標本を地面ジオラマに配置した展示。これが平らなら普通だが、壁面に取り付けてあった。そこに鳥類と哺乳類の骨の内部構造の違い、体毛など身体の部分的な構造の解説が挿入される。もはやお決まりとなった研究室をのぞき見るような展示、採集用具の陳列などもある。前述のとおり、国立科学博物館の歴史は日本時代に遡る。展示室には「100年前に採集された鳥の標本」として5種(コゲラ、シロチドリ、アオアシシギ、アオジ、ホオアカ)の鳥の剥製が特別な形で展示してあった。採集は1913–1917年、採集地はハングルで読めそうだが未解読、採集者は漢字。国立科学館のラベルが付いている。印刷部分は旧字体とハングルなので韓国になってから付けたもの。その下に少し見えているのがオリジナルラベルだろうか。
次に訪問したのは科学技術館。建物は大きな体育館のような作りで、中央部分が地下から2階まで吹き抜けになっていてぐるりと見渡せる。2階部分は展示更新中で閉鎖中だった。窮屈な自然史館とは大違い。展示装置は施設に合わせて大型で大作り。「王様のアイデア」で売っているような小品は見られない。繊細なものは見られない。訪問したのが雨の日曜日の午後で入館者が多く、順番待ちがあちこちで見られた。物理教育の証拠資料としてアンプやカメラが展示されている。その解説が韓国現代史の文脈に位置付けるところ、常に政治と共に語られるのが韓国らしいところだろうか。生物や生命科学の展示は人がまばら。この分野、科学館にふさわしい展示装置が現れるとよいのだが。
韓国の科学館をいくつか観覧しての感想は、科学よりも技術が中心にあり、日本と同様に科学技術という概念が定着してそうなこと。科学史の展示は貧弱でパネルやバナーで済ませたりする。逆にテック企業やその製品を展示に挿入したり前面に出したりすることが目立つ。これは日本の科学技術館や大阪市立科学館と同じ。気になったのは展示装置が高すぎたり大きな力が必要だったりと、主要な客層の未就学児から小学校中学年に合っていないものが見られたこと。これは他の科学館も同様。違うのは韓国の科学館は賑やかなこと。ときどき男の子の「아빠 アッパー(父さん)!」という声が響く。母親を呼ぶ声、女の子が父親を呼ぶ声は聞こえない。科学館の展示室を見ているとジェンダー論に行ってしまいそう。
続いての観覧は未来技術館。展示テーマは産業技術の段階的革新、そして未来の技術が作る世界、この2つ。未来の技術は現代美術が空間を埋める印象。産業技術は相応する実物と技術によって実現した暮らしの写真の組み合わせ。都市問題も扱う。観覧者はまばら。未来技術はメディアアートというのか映像や照明を用いた展示装置や空間演出が多く、実物が少なく物足りない。訪問時は特別展「Beyound mobility」が開催中で、イメージどおりで格好は良いけど浮かびそうにない空飛ぶ車の模型や犬型ロボットがあった。メインの会場には実用間近に見える1人乗りマルチコプター、都市模型、そしてここでも別室に映像展示を設え大きな面積を取り、メディアアートギャラリーがあった。実現未遂の未来技術や実体験不能の機材はバーチャル体験は理解出来るし、展示に適した実物資料が得られないこともわかる。それでもそれでも拡大模型や仕組み体験などの方法があるように思う。
最後に訪問したのは、創意工夫館。これはDeepL翻訳による和訳で英語名称は Science Alive Discovery Center。子ども向けの体験が主体の展示館。こちらも雨の日曜日で大いに賑わっていた。科学館よりも娯楽施設に近い展示に見える。国立中央科学館は基本無料で観覧できるが、この施設は有料。さらに新型コロナウイルスの影響で入館は時間制となっていた。ずいぶん厳格と思ったが、この混雑状況を見て納得である。円筒状の別室には大量の世界のラジオのコレクション。らせん階段を使って見てラジオの歴史を実物でめぐる展示。韓国産のラジオもあった。
国立中央科学館には、他にも生物圏 Biosphere、子ども科学館などがある。全体的に子ども向け施設だが、その方面では日本国内には見られない規模と多様な内容を持った複合博物館である。(2023.5.28訪問)
【行き方】大田地下鉄の政府庁舎駅3番出口から出て広い交差点を右折、警察署前停留所から301, 318, 604番のバスで10分、National Science Museumで下車。駅から歩くと多分30分くらい。大田の地下鉄やバスは 2023年5月現在ではCashBeeカードが使えなかった。
公式サイト英語版トップページ National Science Museum
見たなかで一番詳しい日本語情報 国立中央科学館(National Science Museum of Korea)
かつて営業していた浮上式鉄道の紹介 国立中央科学館(大田)リニアモーターカー