研究内容

<講座概要>

1)ゲノム情報等先端技術と古典的分類同定技術を融合し、新しい分類方法を開発する。

▶︎「ゲノムが解す(ほぐす)」:酵母は、パン、酒などの発酵食品等、我々の生活に密接に結びついた微生物であり、一方、モデル生物として基礎生物学の重要な研究材料でもあります。そして自然界には、それら以外にも多種多様の酵母が棲んでいます。それらの多様な形質と系統分類の骨格との関係を、ゲノム情報と表現型データを双方向から紐づけすることによって解明していきます。

▶「ゲノムで総べる(すべる)」:酵母は菌類でありながら形態的な特徴が乏しいため、種や属の特徴づけには、生理・生化学的性状等が用いられてきました。一方、同じ菌類でも糸状菌やキノコでは主に形態的な多様性により特徴づけられてきました。広義の菌類とも整合性のとれた酵母分類体系の構築のため、これら異なった土俵のデータを、ゲノム情報を用いて束ねていきます。

2)開発した方法を用いて分類体系を継続的に更新し、現在の分類体系を検証する。

▶「広い視野で探索」:酵母は子嚢菌門と担子菌門の両方に位置する系統的に広い菌群です。酵母と他の菌類との共通点と相違点を探索し、分類体系の中で「酵母」を特徴づけていくことにより、酵母とはどんな菌類なのか?という問いに迫ります。

▶「繊細な目で探求」:同じ種の酵母でも、それぞれの株がもつ特徴は様々です。その差を明らかにし共通点を見つけることにより、株間の遺伝的な近さを表す指標や、発酵・醸造に重要な役割をもつ酵母の新たな機能を探求していきます。

研究テーマ1:ゲノム情報を利用した酵母分類基盤の構築

▶近年、細菌やアーキアの分類においてはゲノム情報の導入が進み、系統樹の作成や新種発表の際の近縁種とのアイデンティティの比較に用いられています。同様の流れが酵母を含む真菌類にも起こり始めています。本研究では系統樹の作成に加え、生理・生化学的性状や形態学的特徴などの各種表現性状やDNA-DNA交雑実験の結果など従来のデータとの調和を図りながら、酵母の分類にゲノム情報を導入することを目指します。

  • 酵母のバックボーン系統樹の作成
  • 分類体系の構築には、系統関係を明らかにすることが重要です。真菌類では、従来は、リボソームRNAのD1/D2領域やITS領域等の塩基配列の保存性を調べることによって系統樹を作成していました。しかしこれでは、一つの属が複数の系統群に分散して存在する場合もある等、問題を有する菌群もあることがわかってきました。本研究では、ゲノム配列情報を基に、骨格となる系統樹=バックボーンツリーを作成することで、酵母を含む真菌類の分類体系の基盤を構築します。

  • 分類群を識別するマーカーの作成と検証
  • 子嚢菌酵母と担子菌酵母の多数の種のゲノム情報を基に、分類したい菌群と他の菌群はどこが異なるかを新たな視点から探索し、識別のためのマーカーの作成と検証を行い、酵母を特徴づけていきます。「種」を遺伝的な近さとして表す新たな指標の探索や、必要に応じて種を細分化する変種(variety)の分類にも取り組みます。

    研究テーマ2:酵母の新しい分類方法の開発と検証

    ▶酵母と糸状菌(カビ)は同じ真菌類であるにも関わらず、種や属の分類に際しては、糸状菌では形態を詳しく観察するのに対し、酵母では生理・生化学的性状や化学分類学的性質が用いられるなど、異なる指標が使われてきました。近年、Saccharomyces cerevisiaeAspergillus nidulansなどのモデル生物では研究が進み、これらの表現性状と遺伝子の関係が明らかになりつつあります。しかし、表現性状の中には未だ分類指標としての評価が行われていないものが多くあるため、それらを系統的に広い範囲の酵母を用いて解析することで、糸状菌と酵母の両方に適用できる真菌の分類方法の開発を行います。

  • 核相など(核型、核数、核の行動)の特徴を元にした分類方法の探索
  • 従来より、一部の担子菌酵母の細胞核は、出芽した娘細胞に移動した後に分裂することが報告されていました。そのため、担子菌酵母の細胞核の分裂様式は、S. cerevisiaeなどの子嚢菌酵母とは異なると考えられてきました。本研究では、この性質が担子菌酵母全体において共通なのかどうか、また、S. cerevisiaeのように母細胞内で核分裂する担子菌酵母が存在するのかどうかについて探索していきます。

  • 酵母の菌糸形成機構の多様性の探究
  • 菌糸を形成する糸状菌やキノコは二次代謝産物を多く産生し、我々の生活と深く関係しています。酵母は生活環の多くを単細胞で過ごす生物ですが、菌糸を形成する種も知られています。本テーマでは、酵母を様々な条件下で培養し、菌糸の形成に必要な培養条件や増殖因子などの探索を行い、酵母における菌糸の形成機構の多様性を探究していきます。