イトウは日本とサハリン、ユーラシア大陸東部に生息する大型の淡水魚です。1950年代までは岩手県・青森県でも生息が確認されていましたが、現在では国内の分布が道内11水系のみに限られています。道内でも多くの河川で個体数の激減が相次ぎ、絶滅が懸念されています。個体数減少の理由としては、農地の造成や河川改修事業、開発に伴う河畔林の伐採などによる生息地や産卵環境の悪化が主な要因と考えられています。自分が生まれた川に戻って産卵するという母川回帰性はシロザケをはじめとする他のサケ科魚類にも共通の特徴ですが、イトウは特にこの母川回帰率が高くほとんどのイトウが自分の生まれた川に遡上して産卵します。 写真:産卵期に婚姻色の出たオスのイトウ
そのため、生まれた川に戻るための道のりが堰堤やダムなどの人工的な構造物によって分断されてしまうと産卵ができず、子孫を残すことができなくなってしまいます。こうした状況を解決するために魚道のないダムや堰堤に魚道をつけたりダムをスリット化するなどの取り組みが行われています。
産卵環境悪化のほかにも、人間による捕獲圧や外来種との競合も個体数減少の原因になっています。道内の多くの河川に移入され定着している北米原産のニジマスもサケ科の外来魚です。ニジマスの産卵期である4月~5月は、イトウの産卵期と同時期であり同様の産卵環境を必要とします。そのためイトウが産卵した後の産卵床をニジマスが掘り返すことにより、イトウの受精卵の生残率が低下する問題も起こっています。