第102回定期演奏会 曲目紹介

 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」

 「白鳥の湖」「くるみ割り人形」といったバレエ音楽、「1812年」などの序曲、また協奏曲など幅広いジャンルでその旋律美と和声感から 、クラシック音楽愛好家に留まらず、一般の方でも名前を聞いた事があるという作曲家は珍しい。また作品名を知らなくともその旋律が有 名なものも多い。交響曲第6番はその「悲愴」という愛称から悲劇をモチーフにしていると勘違いされがちだが、もともとのロシア語である 「патетическая=(Pathétique)」は情熱的や熱情といった意味を表すため、ただ単純な悲哀を描いているわけではない。チャ イコフスキー自身はこの曲の初演9日後にこの世を去っているため、ほぼ最後の集大成として見られている。
 曲は開始から暗鬱としており、悲劇をモチーフとしていると見られても仕方のない部分がある。全曲を通してモチーフとして崩れ落ちる ような下降音型が用いられる。ファゴットのソロから始まる第1楽章は溜め息のような主題とロシアの五音音階による旋律が対比される一 番緻密な構成を誇る。第2楽章はスラブ系では珍しくない5/4拍子による戦いも死も飲み込むワルツ。第3楽章は悪魔的なタランテラ( 急速な動きを特徴とするイタリアの民族舞曲)と破壊的なマーチの融合された楽章。第4楽章は通常は快活な曲が入るところをこの交響曲で は鎮魂歌調の曲が入る。特徴的な管弦楽法が駆使され、最後まで下降音型のモチーフで静寂へと沈んで行く。


 ニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ 歌劇「皇帝の花嫁」序曲

 《皇帝の花嫁》はリムスキー=コルサコフの全15作の第9作目となる歌劇である。 交響組曲「シェヘラザード」や「スペイン奇想曲」といった有名な管弦楽曲を多く生み出している作曲者だが、15曲の歌劇を書き、ムソルグスキーらのオペラを補筆するなどオペラ作家としても素晴らしい業績を挙げている。
 この《皇帝の花嫁》はそのオペラ作品の中でも大きな成功を収め、ロシア国内でも頻繁に上演される演目である。 劇作家レフ・メイ作の、ツァーリ・イヴァン4世雷帝の妃マルファ・ソバーキナが結婚直後に急死した史実に基づいた戯曲を脚色したもので、 マルファと彼女に想いを寄せるグリャズノイ、グリャズノイの愛人であるリュバーシャを主軸に巻き起こる悲劇となっている。
 この度演奏するのはその歌劇の始まりを担う序曲。 オペラのなかで独立した曲で、第一主題、第二主題共に劇中では用いられていない。 しかしながら歌劇の劇的な雰囲気を見事に表現しており、序曲というものの性格をよく表した作品である。


 フランツ・リスト 交響詩「前奏曲」

 リストの13作の交響詩の中で最も演奏される機会が多く有名な作品である。もともとは合唱曲のための序曲として描かれたが、後に序曲 だけを独立した作品として発表する際に、ラマルティーヌの「瞑想詩集」に霊感を与えられ、完成するに至った。
 表された楽譜にはリスト本人により序文が書かれており、概要は「人生は死によって奏でられる未知の歌への前奏曲である。愛はあら ゆる存在を生むが、その歓びは嵐により断たれる運命にある。そうした激動により傷付いた心を静かな田園生活の中で忘れようとするが、 人は自然の平安に長くは耐えられないであろう。そして戦いの信号ラッパが鳴ると、自分の存在意義を求める為に戦場へ赴くのである。」 とのものである。この文の構成は4部に分かれており、前奏曲の構成と同じである。この序文は聴く人に情景を思い浮かばせるように書かれ ており、「交響詩」というジャンルの創始者であるリストの創意が現れている。

東京農業大学 農友会管弦楽団