北海道新聞オホーツク面「ときわぎ」平成20年(2008)8月?日

クジラいかがですか

クジラとつきあい始めて十年がたつ。決して専門ではないのだが、経験豊富なひとが少ないらしく、近ごろは年に何回か話をする機会がある。

海の哺乳類は観察がむずかしく、また、大型種では飼育も不可能で、わかっていることは陸上の動物に比べとても少ない。ヒゲクジラがどうやってあの巨大な口を開し閉めしているのか、ちゃんとした研究はなされていない。市場に出回るミンククジラでさえ、どこで子どもを生んでいるのかがわかっていない。網走を基地に捕獲しているツチクジラはいまだに幼獣の姿が知られていない。日本は捕鯨国なので、資源管理に関係した調査はたいしたものだが、基礎的な学問は研究者も少なくこれからの分野だ。

なので、専門家でない一般の人たちが活躍する機会が残されている。オホーツク海ではこの何年かで、新たに確認された種類が三つもある。どれも犬の散歩やボウフウ採りのひとが見つけてきたものだ。カナダでは退職した先生が趣味で解剖をして、博物館を創って、新たな知見をビデオにおさめ、研究成果を本にしている。国際学会でも日曜研究家がいろいろと発表している。クジラを前に、プロもアマチュアも一緒なのだ。

研究や学問というと敬遠してしまうが、ようするに疑問の表現や好奇心の充足だ。写真や絵で表すことも重要で、芸術(これも重い言葉だが)との垣根も本当は低い。お金もさほどかからない。趣味はクジラの研究です、なんてさらっと言えて、自然に受け止められる、そんな時代が来ればいいのにな。


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