「民俗資料」の収集保存基準と検索名称の開発:工場部品から日記まで

横浜フォーラム2023「フランスから考える民俗資料の収集保存と活用方法」【発表報告】

問題提起「あふれかえる民俗資料の未来」:宇仁義和

投影資料 pdf 4.4 MB
配付レジュメ pdf 1.5 MB

発表スライド1
スライド1
 フォーラム「フランスから考える民俗資料の収集保存と活用方法」を始めたいと思います。私は北海道網走市にあります東京農業大学オホーツクキャンパスの学芸員課程を担当しています。
 今日のタイムスケジュールは投影のとおりとなっています。4時45分に終了予定で、5時には建物から出なければなりません。ですので4時45分には総合討論を全て終えて終了したいと思います。もっとお話しをしたいという方がいらっしゃるかと思いますので、終了後に外に出てカフェで懇談会ということを5時以降に設定しております。もしお時間のある方は参加していただければと思います。

発表スライド2
スライド2
 問題提起や民俗資料の未来とはというお話を進めていきます。このフォーラムは3年間の科研費の補助をいただいています。3年間でおもに民俗資料の収集指針の提案、廃棄と譲渡に関する基準を提示、さらに検索用のメタデータの追求ですとか、通文化的な検索名称の考案を目指しています。そして海外博物館での取り扱いの状況を共有したいと考えております。

発表スライド3
スライド3
 今日はこれら全部を議論するのではありません。3年間掛ければなんとか実現できるかなと思っています。図は、研究のねらいとして大風呂敷を書いたものです。現在の博物館の状況は民俗資料が利用されずに収蔵庫が満杯になっている、そんな状態を各地の博物館が迎えています。心苦しい、何て言いますか心のどっかに民俗資料が気になりつつ何もできない、そんな状態にある。そこからですね、この研究の後には民俗資料が利用される、そして整備された状態が手に入る、新しく収納スペースが手に入るということを目指しています。現在、もしかしたら民俗資料の受け入れを停止しているような博物館があると思いますが、受入停止が解除され新たな収集ができる、そんな風な結果を求めています。できるかどうかちょっとわかりませんが。

発表スライド4
スライド4
 民俗資料は不定形で立体で大型です。押葉標本のように定型で平面とは対極の形態です。それから広い意味での民俗資料には量産品が含まれていて、その価値がよくわからない。その一方で、同じような資料でも、資料の来歴や経験、周辺住民の体験から資料価値が高いことがあったりします。博物館が収蔵する民俗資料には、投影している図の5番目の「審査をせずに収蔵している資料」というのがあります。後からもう一度触れます。

発表スライド5
スライド5
 民俗資料には同じ資料とはどこまでか、少しでも違いがあれば違う資料なのかという問題もあります。たとえば鉄瓶や箪笥、ミシン、家電製品など、少しでも違う箇所があれば違う資料なのか、おなじ型でも色が違えば別の資料として取り扱うのかなど。また、製品を製造した企業が保存すべきという考え方もあるでしょう。

発表スライド6
スライド6
 名称についても非常に混乱があります。「たこ足」は北海道の水田で直巻きをするための道具なんですけれども、投影スライドのとおり名称は博物館によってバラバラです。このような状況でデータベースを整備したとして、この資料にたどり着くためには別の手段、検索名称のようなものが必要ではないかと考えているわけです。

発表スライド7
スライド7
 量産品は、いろんな博物館で山のようになってるかと思っていたんですね。ところが、博物館によっては「集めません」と宣言をしているところがあると分かりました。長野県の博物館です。「諏訪市博物館 資料の収集・収蔵・活用方針」には、近代以降の生業に使用する民具は受け入れない、全国的に流通した画一的なものはできるだけ活用する、つまりは教育用資料などにすると記しています。このような資料の収集方針や明文化した文書、それも博物館協議会の場で公開している文書というのは非常に珍しい。先進的な取り組みだと思います。

発表スライド8
スライド8
 量産品が対象外となっている民俗系の博物館もあります。当然、民俗担当の学芸員がいるのですが、専門は民俗芸能であって、量産品のような資料について博物館は集めない。それは社会教育担当部門の仕事だという。私にとってこの事例は驚きでした。ここに紹介した長野県の事例は、他地域ではあまり知られていない事実かも知れません。

発表スライド9
スライド9
 民俗資料の活用については非常に議論があるかと思います。自分なんかが若い頃だと、受け取った資料のホコリまで保存するんだという学芸員もいた。他方、使わないと意味がないという考え方も成り立つ。蓄音機であれば形だけ保存しても意味が無いのではないか。つまりレコードを実際に掛ける、つまり資料の活用によって電気を用いない再生音声を聴く体験が継承できる。博物館が資料を保存するといった場合、現実には形態の保存となっているのですが、活用によって機能や役割を継承する、機能や役割を保存したと言えるのではないか、このような考えも可能と思うんですね。ですので、活用にはいろんな議論がありますけれども、保存とは何か、博物館は資料の何を保存してきたのかという問い掛けでもあるのです。

発表スライド10
スライド10
 次いで廃棄です。ICOMの倫理規定では、2.13「収蔵品の除去」という規定があります。つまり、収蔵品の除去、つまり廃棄も条件によっては議論をして吟味をして、その上であれば可能と書いてある。写真は実例で、北海道立北方博物館が収蔵している北米の太平洋海岸の先住民のローブです。これは最初に、おそらくニューヨークのアメリカ自然史博物館が集めたもので、これをドイツのドレスデンの博物館が買って、最後に北海道が購入した。交換や購入を経て北海道にやってきたものです。活用と言いますか、資料が行くべき場所に行き着いて保存されている例ではないかと思います。

発表スライド11
スライド11
 最後にややこしい絵を描いています。いちおう広義の民俗資料の特徴を整理したもので、横軸が生産者数、縦軸を生産量として民俗資料を平面に展開して、特性を考える材料にしようという図です。それから先に触れたように、民俗資料には未選定未審査の状態で博物館が受け入れる場合があります。資料価値が様々なものが含まれているのが民俗資料の特徴です。それに対して、美術館の資料は必ず選定されたものだけが購入されます。ひとまず民俗資料とされた資料から選定されたものが、美術品として美術館に入ることもあると考えることもできます。民俗資料を抱えた博物館や学芸員は、未選定の資料を受け入れている場合がある。もし受入資料の廃棄や処分と考えるなら、それが選定や審査の過程を経た資料か、そうではない資料とで扱いが違うはずです。そうでない資料の廃棄や処分は、本来は受入前にすべき選定が収蔵後になってしまったと考えることができるのです。
 今日のテーマのひとつが量産品です。量産品は実はおおきく2つに区分できるのではないかと考えるようになりました。ひとつは型番を頼りにインターネットで商品が特定できる「型番付き大量生産品」。「シン量産品」と言ってもよいでしょう。2つ目が型番やラベルは一応あるけれども、それだけでは特定できない資料、つまり、作り手が多数で、それぞれの作り手の生産量は少数で、しかもしばしばモデルチェンジが見られる「量産品スペクトラム」です。「準民具」と言ってよいのですが、この言葉は特定の意味がすでにありますので「量産品スペクトラム」という言葉を与えました。我々の民俗資料研究は、おそらくこの2つを対象に進んでいくものと見込んでいます。

発表スライド12
スライド12
 ちょっと時間を超過して申し訳ありません。この後は北海道を事例に地方博物館の状況について持田誠さんから、そして基調講演としてフランスの博物館制度と民俗資料の状況をベルトンさんから、最後に民俗資料のメタデータとデータベースについて本間さんからお話をしていただきます。北海道ではちょうど半月くらい前に札幌の隣の江別市で、アスベストを理由に民俗資料が建物ごと廃棄されてきます。しかも台帳が未整備で何を廃棄したかも分からないというような事案がありました*。配布資料に新聞記事が付いていますので、見ていただければと思います。
発表スライド13
スライド13
*【訂正】江別市が廃棄した資料は郷土資料館建設時に収集した質の高い資料であることが後日判明している。一部の報道とは異なり、資料台帳や資料写真が存在し、公開データベースにも掲載されている第一級の民俗資料だった。
郷土資料をご寄贈いただいた皆様へ | 北海道江別市公式ホームページ


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