ヨーロッパの博物館めぐり15

ゼンケンベルク自然博物館

ゼンケンベルク自然博物館外観

 ゼンケンベルク自然博物館研究機構(フランクフルト) Forschungsinstitut und Naturmuseum (Frankfurt am Main) は旧西ドイツで最大の自然史博物館である。展示も建築にも派手さはないが、標本の質と数はヨーロッパ有数、恐竜を初めとする化石はとくに充実している。世界最大という鳥類のコレクション、地質分野など見所が非常に多い。高層ビルに埋もれるような石造りの建物、まわりは恐竜の等身大の模型が配置された地球の歴史を伝えるジオパークも楽しい。

化石でたどる進化の実験

 日本は化石に恵まれないため資料が乏しい。そのため博物館の展示はストーリーに沿った選択された化石だけが並んでいる。それは少ない素材で何かを語ろうと誰かが編集したものだ。それを見て育ち、化石生物への認識を形成するのは、近代の西洋絵画が印象派だけと思い込むようなものだ。それに引き替え、ゼンケンベルクの博物館は魚類でも爬虫類でも化石がいっぱいという印象。主役も脇役もみんなそろって待っている。水中適応に挑んだ大昔の爬虫類はフタバスズキリュウだけでなく、ノトサウルスやモササウルス、世界で唯一というカメのような爬虫類プラコドゥスの全身骨格など多様な実験と進化の道筋を実物資料が語ってくれる。

 サンショウウオやカエルなど日本では珍しい種類の化石が多いこと、吊り下げられた全身骨格が目から近い位置にあること、横向きなどさまざまな姿勢での展示など見応えがある。

Simosaurus Placodus gigas Tylosaurus micromus
サンショウウオの化石 カエルの化石 シーラカンスの化石
上段 左:水中より陸上が得意だったノトサウルスの仲間のSimosaurus 三畳紀、中:三畳紀の中央ヨーロッパの浅海に棲んだ Placodus gigas 水中適応は未発達、右:遊泳力を身に付けた白亜紀のモササウルスのなかまティロサウルス Tylosaurus micromus アメリカ・カンザス州産
下段 左:サンショウウオの化石、中:めずらしいカエルの化石、右:シーラカンスの化石

印象的なグラフィック

 展示では資料とならびグラフィックが目を引く。それもモノクロや色数を抑えたグラフや模式図が印象的である。実物資料を組み込んだグラフィックも目立つ。ふんだんに実物を取り入れたグラフィックもおもしろい。

Peloneustes philarchos 魚類の系統樹
爬虫類から鳥類への進化 羽毛を得た恐竜
上段 左:プレシオサウルス Peloneustes philarchos の化石と遊泳法の模式図、右:数多く枝分かれした魚類の系統樹
下段 左:爬虫類から鳥類への進化と始祖鳥ベルリン標本のレプリカ、右:羽毛を得た恐竜の模型と化石を用いたグラフィック

 昆虫や甲殻類は小型で実物から細かな点を観察するのは困難だ。また、苦手な人も多い。そこで、理解しやすいよう、退屈しないようにする効果を狙って大型の模型を展示しているのだろう。日本人には「タカアシガニ」と大きく殴り書きのようなカタカナが印象に残る。

 鯨類コーナーでは身体の動かし方やエコーロケーションについて、イラストと骨格標本や液浸標本を並べて説明していた。日本だと解剖した標本は避けることもあるように思う。魚類のコーナーでは模型(剥製?)と組み合わせたグラフィックで、そこに漁船や漁網など漁業の方法がイラストで示してあった。イギリスやフランスの自然史博物館では、自然資源の利用の解説は見なかったように思う。生き物の展示で産業に触れるのはカールスルーエ自然史博物館でもあったが、ドイツの自然史博物館の特徴だろうか。

タカアシガニと十脚類のグラフィック 昆虫のグラフィック
魚類と漁業のグラフィック 鯨類の水中適応のグラフィック
上段 左:「タカアシガニ」の殴り書きが印象的な十脚類のグラフィック、右:巨大模型を組み込んだ昆虫のグラフィック
下段 左:魚類と漁業を一緒にしたグラフィック、右:標本を用いた鯨類の水中適応のグラフィック

世界最大の鳥類コレクション

 化石とならび圧巻は世界最大といわれる鳥類剥製のコレクションである。剥製といっても巣や実際の生息場所に合わせた木の枝に泊まるちいさなジオラマで再現されていて、それも感心させられる。背景画はなく、ガラスケースに並んでいるので、遠くから見るだけでは面白くない。精巧な展示は近づいてじっくり見ることで良さがわかる。

鳥類の剥製 鳥類のミニジオラマ
左:ずらりと並んだ鳥類の剥製。右:本剥製は巣や生息場所に対応した小枝などを使ったジオラマ風に作られている

 絶滅鳥類も実物が数多い。ヨーロッパ原産のオオウミガラスはもちろん、ニュージーランドにいたモアの骨格が3種展示されていた。痩せて背の高い大モア、がっしりした脚の象脚モア、そして小モアの標本など、モアといっても一口で語れないこと、多様化していたことが実家できる。絶滅生物のシンボルであるドードーはまぎらわしい「剥製」(実物は存在せず、ロンドン自然史博物館などにある剥製は他の鳥の羽毛を使った模造品)ではなく、骨格標本のレプリカを置いているのは良心的だ。生きていた時の姿は映像で紹介している。実在すると勘違いしやすい剥製よりも研究の進展を反映しやすく、よい方法だと思う。

大モア Dinornis giganteus 象脚モアと小モア Pachyornis elephantopus & Emeus crassus
オオウミガラス Alca impennis ドードー Raphus cucullatus
上段 モアの骨格が3種展示されている。左:体重200kgになった大モア Dinornis giganteus
右:がっしりした象脚モア Pachyornis elephantopus とその左に首を曲げ頭を床につけた姿の小モア Emeus crassus
下段 左:飛べなかったオオウミガラス Alca impennis。ヨーロッパではあちこちで見かける、つまりこれらの標本採集が絶滅に追いやった
右:ドードー Raphus cucullatusの骨格レプリカ

大陸移動説と化石の沼

メッセル採掘場 Grube Messel (Messel Pit) の化石群 Kopidodon macrognathus

 生き物ばかり書いてきたが、この博物館の見せ場にはドイツ最初の世界自然遺産メッセル採掘場 Grube Messel の化石発掘現場 Messel Pit Fossil Siteの化石群がある。メッセル採掘場の化石群は、5千万年前の生物がきわめて良好な状態で保存されていることで知られる。魚の鱗や鳥の羽毛、哺乳類は毛を残したまま、生きている姿そのままで化石になっている。その代表は体毛まで見分けられる原始的な有蹄類というコピドドン Kopidodon macrognathus 、全長1mほどで写真では中央下に写っている。

ウェゲナーの展示 Alfred Wegener

 ところで大陸移動説を唱えたウェゲナー(アルフレート・ヴェーゲナー) Alfred Wegener が初めて大陸移動説を披露したのがゼンケンベルク自然博物館でのレクチャーで1912年1月6日のことだった。その縁あって常設展示にはウェゲナーのコーナーがある。また、訪問した2012年2月はレクチャーから100年を記念し、熱気球やグリーンランドなど彼の活動を振り返る特別展が開かれていた。

ありのままの展示

ルーシー Lucy 恐竜展示室 左上:恐竜化石展示室に構えるディプロドクス
左下:皮膚の一部が保存されたエドモントサウルス
右:化石人類の有名人ルーシーの骨格レプリカ

 この博物館の展示の特徴は、2014年のはやり歌を真似れば、ありのままの展示ということだろう。象徴的なのが最も有名な化石人類「ルーシー」の見せ方。筋肉や皮膚を加えた エドモントサウルス Edmontosaurus 外観の復元はなく骨格、それも発見された骨格のみを展示している。これではあまりに専門的でわかりにくく、面白くない、と思うほど。そういえば恐竜を含む爬虫類や鳥類、両生類、魚類、すべての化石標本には復元模型が置かれてなかったと思う。

 昆虫や地質などを除き、化石や生物は実物だけで満足できる展示なのである。(2012.2.29訪問)

【行き方】地下鉄U4・U6・U7線 Bockenheimer Warte 駅から徒歩3分
公式ページ(英語)
生物標本作製室(英語)
博物館の成り立ち 櫻井文子.2014.都市型コレクションの有用性:19世紀フランクフルトのゼンケンベルク自然誌博物館を例に.リンクありPDF 1MB
パリ工芸技術博物館の通路は教室
優美な室内ですわって模写する姿は美術館とかわらない
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