ピットリバース博物館は Pitt Rivers Museum は数あるオックスフォード大学附属の博物館のなかで、ひときわ異彩を放っている。大学附属の自然史博物館の展示室から出入りするが、自然光で明るい自然史博物館から一転して暗がりのなか、びっしりと民族・考古資料が詰め込まれた黒塗りのケース。混沌として、くらくらするような、おどろおどろしい感じのする古めかしい展示室へと入っていく。ところがこれは2009年に展示改訂をすましたばかりなのだ。
ピットリバース 1827-1900 とは資料を寄付したコレクターの名前である。彼は職業研究者ではなく、イギリス海軍に奉職した軍人である。ここにある資料は彼自ら収集したものではなく、古物商から買い集めた。民族学や考古学の博物館では、展示は地域や民族、文化ごとに展示されることが多いなか、彼が目指した展示はそうではなく、資料の種類や目的別に陳列することだった。その思想は更新時でも引き継がれ、形状が似た、進化でいう相似形の道具がまとまることになる。羽根飾り、歯牙製の首飾り、魔除けの道具、ケースひとつで時代や地域による人 類の試行錯誤が見て取れるのだ。ものをたくさん集めて並べて見ると新たな理解や発見が生まれるという博物館ならではの体験がここにある。
博物館の設立は2万点におよぶ資料が寄贈された1884年にさかのぼる。以降も資料が集まり、現在では25万点以上となっている。代表的な展示資料はクック第2次航海(1772-75)で収集された太平洋の民族資料、カナダのクイーンシャーロット諸島にあるグラハム島」 Graham Island, Queen Charlotte Islands のトーテムポール、東アフリカの帆付きボート、それから日本のおふだやお守り、能面など。ピットリバースは資料を寄贈するにあたり条件を付けた。ひとつは大学の研究や教育に生かすこと、展示の構成を変えないことである。その遺言どおり、現在の展示は1960年代の改装を元に戻し、設立当時の姿を伝えるている。このことは1901年の写真と比較することで一目瞭然だ。
1901年の展示室の写真 https://www.cabinet.ox.ac.uk/pitt-rivers-museum-looking-east-across-cour
2009年の展示改訂は開館当初の姿を取り戻す作業だった。入口にあった1960年代の展示スペースを解体し元のとおりトーテムポールの見通しを回復、取り去られていた当初の展示ケースを2階回廊に戻したのである。しかし、展示改訂は昔の姿に戻しただけではない。新しく家族向けの作業場所 Clore leaning gallery を2階回廊に設け、週末プログラムの開催場所としたのである。実物資料に囲まれた空間で講座ができるなんて、なんというぜいたくだろう。加えて空調も整備されたほか、公式ページに記述はないが照明も刷新されている。
展示室には映像やコンピュータ機器は置かれていない。おおきなグラフィックパネルもない。あるのは実物と手書きのラベル、そして簡単な文章だけの解説板だ。外観は19世紀オリジナルに戻し、空調や教育場所を確保、資料を美しく見せる照明を導入し、エレベータや特別展示室は増築部分にある。古き良き時代の雰囲気とユニバーサルデザインや現代的快適さの同居、これこそ21世紀の博物館の姿ではないだろうか。
ヨーロッパの民族博物館は、白人が有色人種を見つめる場所であった。この視点は人種差別や白人文化優越主義と交わることもあり、批判の的とされてきた。この点に関しピットリバース博物館では、民族資料を作品 art として位置付ける、収集地域から人を招いて先祖が使用した民族資料を共同で研究することをもって回答としているようだ。研究者は地元の視点や考えを学び、地元民は先祖の智恵に触れる機会というわけだ。近代博物館発祥の国では、展示や研究活動が常に更新されている。彼らの優位性はしばらくは揺るがないだろう。(2012.2.4訪問)
カナダ先住民・北西海岸インディアンのハイダとの共同研究
【行き方】オックスフォード駅 Oxford から徒歩15分、オックスフォード大学自然史博物館から出入りする。
Taking the Past into the Future: Redevelopment project 2008 – 09 pdf 455KB
Historic Blackfoot Shirts to visit Canada 2009 pdf 426KB
International research network - Haida pdf 188KB