北海道大学教育学部紹介パンフレットへの寄稿(2000)

文転して選んだ学部でしたが得たものは少なく,卒業後はまったく音信不通状態でした.ところが大学も競争の時代に突入し,ユニークな経歴や職歴を持つ卒業生に使用価値が生まれたのか受験生募集パンフレットへの原稿依頼がやってきました.高校生向けにお兄さんが書いている文章なので,やや偉そうです.

個人と社会の接点を考える

宇仁義和(91年3月卒業・斜里町立知床博物館学芸員)

北海道の自然にあこがれて本州から北大にやってきた。生物学系の理III系に入学した私は、生態学を勉強し環境関係の仕事に就こうと考えていた。しかし、在学中から自然保護運動に関わり出し、社会を支える人間について深く知りたいと思うようになっていた。そして理系の学部から教育学部へ転部した。

当時の文系では珍しく、教育学部にはゼミ室があり、学部生も机を持つことができた。ここでの学問は、専門分野に位置付けされた課題を消化するのではなく、学生の自由な発想にゆだねるものであった。言い換えれば、放任主義、各自のセンスが試されていた。卒論のテーマは「自然保護運動」だった。

当時はバブル経済の真っ盛りで、北海道では各地でリゾート開発が計画され、それに反対する住民運動もまた活発だった。卒論で調査した運動は、メンバー層の幅が広く、その関わり方も動機もさまざまだった。聞き取りに対しては皆、行政と政治の知識が深まり、自己認識のいい機会であったと語ってくれた。現実の世の中で、大人が成長していく場面を見たように思った。それは学校の外での教育を考えるきっかけとなった。

社会教育の現場は、小さな子どもからお年寄りまで、また農家、漁家、主婦、会社員、いろいろな人と出会う毎日である。個人個人は違った歴史を歩み、それぞれに異なった考えを持っている。だから型どおりの伝え方では受け入れられない。相手の生きる世界を想像する、このことの大切さを実感している。
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