北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成12年(2000)9月22日

眠れよい子よ

八月に子どもが生また。長男は生まれてから一週間を病院で過ごし、我が家にやってきたが、退院したその日がたいへんだった。夜、なかなか寝付かず、泣き声は激しくなるばかり。何しろ初めての子なので、どうすれば良いのか見当がつかなかった。

そんな時、もらった子守歌のCDをかけてみた。一曲目はモーツアルトの子守歌。「眠れよい子よ」とメロディーに合わせて歌詞をそらんじる。するとなぜだか自然とまぶたが熱くなり、不覚にも涙を流してしまった。シンプルであたりまえの歌詞だけれど、うろたえ祈るような気持ちをズバリ言い表してくれたからだろう。

昔から世の親たちは、小さな赤ん坊を寝かすためにどれだけ苦労をしてきたのだろうか。泣きじゃくる子どもを前にした時、つらい気持ちを歌と言葉に換えることで、どれだけ勇気を与えられたことだろうか。実は子守歌は子どもに聴かせるだけでなく、安らかな寝顔に会いたい親心を歌ったものだったと、今更ながらにようやく気付いた。

子どもが生まれて一ヶ月。まだまだ始まったばかりだけれど、子育てを体験するうちあたりまえの言葉が心を打つようになってきた。新しい自分も一緒に成長していくのだろう。


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