北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」平成12年(2000)3月30日

ガラスの写真

いま博物館で写真展を開いている。世紀の終わりにこの百年を振り返るという、近頃はやりの企画なのだが、あらためてガラスに撮影された写真の魅力を見直す機会になった。

写真が誕生したのは百六十年ほど前のこと。最初の頃は、化学薬品を金属に塗り、そこに撮影するものだった。ネガを作りプリントする現在の方式は、薬品を塗った板ガラスで撮影することで初めて可能になった。保存ができ簡単に持ち運べるように改良されたものが「ガラス乾板」である。

現在、展示している写真の多くが、この時代の作品である。沖合いに停泊する木材積取船、鉄道開通のパレード、満員の劇場、近代化の進展を素直に祝っていた頃の熱気が伝わってくる。銃後の重苦しい整列の風景を経て、収穫をよろこぶ戦後間もない家族の写真は、苦しい生活にも希望があふれているようで、ほっとする。

これらは、もちろんモノクロの写真だが、現在のフィルムからは得られない独特の味わいがある。階調は豊かで奥行があり、空気の透明感まで感じさせる。粒子は非常に細やかで、拡大しても乱れず、見るたびに新しい発見がある。

創造と破壊を繰り返した二十世紀。その前半は、幸せも苦しみも、もろく壊れやすいガラスに記録されている。


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