2015年ネパール地震を対象とした

国際緊急共同研究・調査支援プログラム(J-RAPID)

成果報告

 
 


研究課題名:「ネパール大地震による農山村地域の被災状況に関する実地調査と
       GISデータベースの作成」


研究期間:平成27年6月~平成28年6月


主な参加研究者名:

    東京農業大学地域環境科学部

        教授 三原真智人

        教授 島田 沢彦

        教授 岡澤 宏

        助教 関山 絢子

        学術研究員 上野 貴司

        学術研究員 三輪 幸司

    Kathmandu University

        Prof. Dr. Bim Prasad SHRESTHA

        Asso. Prof. Dr. Manish POKHAREL

        Asso. Prof. Dr. Gajendra SHARMA

        Assi. Prof. Dr. Prachand Man PRADHAN

        Research Assistant Sneha SHARMA

        Research Assistant Sujata DHAKAL


研究調査の目的

 2015年4月25日、ネパールの首都カトマンズの北西76 km付近に位置するガンダキ県ゴルカ郡サウラパニを震源とするM.7.6の地震が発生した。またM.4.0以上の余震が300回以上、M.6.0以上が4回発生し、ネパールの人口の3分の1となる800万人以上の人々が何らかの被害を受けたとされている。この地震によってネパールの広域において、ネパール当局から8,700人の死者と22,300人の負傷者がこれまでに確認された(National Planning Commission, Government of Nepal, 2015年)。

 これまでに市街地等の被害は十分に確認され、復旧作業が進められているものの、カトマンズから離れた農山村域における被災状況は正確に把握されているとは言い難い。また、急傾斜地の多い農山村域では今後もダムの決壊や土砂崩れの発生が懸念されており、二次・三次災害の恐れが非常に高い。したがって一日も早い安全な地域への移住、再定住化が緊急に必要とされている。多くの農山村域の被災者は農業に従事しており、今後の自立した生活を送るためには、農業分野における研究の必要性は非常に高く、復興に向けての寄与が高いと考えられる。そこで本研究は、農地農業用施設の被害状況および土地条件(土壌、地形など)を考慮した災害リスクの評価に焦点を当てた。研究対象地はカトマンズから東に48 km程離れた、多数の家屋や家畜舎が損壊したカブレパランチョーク郡パンチカル地区を対象とした。研究手法はアンケートを中心とした現地調査や、各関連地理情報データの収集、リモートセンシング等を利用したGISデータベースの作成とそれに基づいた家屋等の建物や農地農業用施設の被害状況の把握と分析を行った。これらの結果を基に、再定住計画の基礎的情報に資する災害リスクの評価を行うことを目的として研究を進めた。


研究調査の成果

1. 研究調査の成果、被災地復興や今後の防災・減災への貢献

 ネパール地震においては、一般的な地震災害と同様に、市街地の被害状況は多くのメディアにも取り上げられ、国際支援や復旧・復興への行動はいち早くとられるが、農山村地域では都市域に比べて調査や支援、復旧作業は遅れることが多かった。その上、学術分野においても農業分野における研究支援は限られている。そこで、本研究が果たした役割は高いといえる。特に、ネパールの農山村地域は傾斜が大きく、国道からも遠く離れ、道が舗装されておらず、調査や支援が困難なために被災状況が正確に伝えられるまでに時間がかかる。しかし、被災地住民の多くは農業に従事しており、国の基盤を支えるために農村支援の緊急性は非常に高いと判断した。

 当初は農地への直接被害に対する調査が主となると予想されたが、農地では地震による被害が見られなかった。しかし、研究対象地域では急峻な山間部を開墾して農地にしていることから、震災後における土壌侵食は大きなリスクと考え、当初の研究計画には含まれていなかった土壌侵食リスクを調査に加え、土壌サンプリングを行い、土壌リスク図を作成した。これにより震災前後における土壌リスク変化量を推定し土地利用別に解析を進めた。その結果、森林のリスク変化量は低下傾向にあり、一方、住居地では増加する傾向が認められた。また、農地では地震前後のリスク変化量は平均値で見ると小さいものの、偏差が大きく部分的に震災後に高くなっている箇所があり、今後の対策が重要になると判断できた。これらの結果より、住居地やリスク変化量が増加した農地においては、土壌侵食を低減させるためには、先ず植生被覆を保つことが重要であることが提言できた。

 また、カブレパランチョーク郡の農山村における農業用施設の被害状況を見ると、水路については地震による深刻な被害は確認できないものの、家屋や家畜舎の多くが損壊しており、その建物の下敷きになった家畜の損失も大きかった。調査した136戸の建物における被害程度の内訳は部分壊、半壊および全壊がそれぞれ21.3%、12.5%および65.4%であり、多くの建物が全壊していたことが明らかになった。建物被害度を目的変数として、建物の築年数、建材、土壌侵食リスク、リスク変化量、土地利用、灌漑タイプ、地形勾配などの建築物や土地条件、営農状況等を説明変数として重回帰分析を行った結果、建物築年数と標高が有意な変数として選択され、これらの二つの要因が建物被害度に影響を与えていることが本研究の結果から示された。


2. 国際連携の成果

 本研究対象地がネパールであったことから、ネパール側の研究員と共同することで、日本側単独では得られない現地情報や必要なデータを得ることができ、円滑に研究を進められ、期間内に一定の成果を得ることができた。特にアンケート調査や現地省庁との交渉では、長期滞在や現地語でのコミュニケーションや現地に関する情報が必要とされる。また現地の大学は現地の人々からの信頼も厚く、情報収集能力は日本の大学よりも格段に高いと評価できた。本共同研究によって、お互いのチームの長所・短所を補完し合うことができ、研究調査への相乗効果を高かめることができた。

 今後、研究対象地において災害リスクを考慮した土地利用や震災後の土壌保全対策を提案した。本研究対象地において持続的な土地利用に関する議論が促進され、災害リスク低下のための対策が進められることが期待されている。また、本研究の成果を実際に行動に移していくために、本研究にも参画した農村開発分野のNGOである環境修復保全機構に研究対象地への支援を依頼しているところである。

 さらに本共同研究を通して、両国から多くの若手研究員や大学院生を研究や調査に関与させることができ、人材育成に寄与することができた。日本側の研究技術をネパール側と共有することができ、研究の技術移転・交流を促進することができた。また、熊本地震による農業被害に関する共同調査も継続して実施しており、さらなる農村防災・減災における分野での研究の向上が期待されている。その他、今後は研究交流の促進のため、ネパール側若手研究員の日本への招待を計画している。